オピニオン

「起きようとしない男」

 今年1月に亡くなった英国人作家デイヴィッド・ロッジ(1935~2025)が1966年に発表した短編小説「起きようとしない男」は、文字通り、起きることを拒否した男のお話。ある寒い朝、ひとりの男が、「自分が人生になんの愛情も抱いていず、唯一の歓びはベッドに横になっていることだ」とふと気づく。そして、「あまり長くはないと思われる残りの人生をベッドの中で過ごす」ことを決意する。「俺はもう人生を愛してはいない。俺に歓びを与えてくれるようなものは、もはや人生にはない。このこと以外――ベッドに横になっていること。(中略)でも、お前は起きなくちゃいけない。お前には仕事がある。養うべき家族がある。妻は、もう起きた。子供たちも起きた。彼らは自分たちの義務を果たした。さあ、お前は自分の義務を果たさなくちゃいけない。そうなのだが、それは彼らにはたやすいのだ。彼らは、まだ人生を愛している。俺は、もう愛していない。俺は、このことだけしか愛していない――ベッドに横になっていること」。ベッドから出なくなって2週間もすると体は衰弱し、4週間後には寝たきりになるが、意外にも彼は有名人になってしまう――。
 さて、起きようとしないのも困りものだが、眠れないことはさらに悩ましい。日本人の5人に1人が睡眠の問題を抱えているといわれるなか、厚労省の審議会では現在、学会等の要望も踏まえて、医療機関が標榜可能な診療科名に「睡眠障害」を追加する方向で検討を進めている。睡眠の問題を把握しても、どの診療科を受診すべきか分からない現状を改善し、医療アクセス向上を図るのが狙いで、来春にも改正される見込みだ。
 もっとも、受診する診療科が明確になったからといって、眠れないのはやっぱりしんどい。不穏なニュースばかりの昨今、あれやこれやと思い悩んでよく眠れないという方もいるかもしれないが、せめて年末年始くらいは、この小説の主人公よろしく寝床でぐずぐずとまどろむ幸福を味わっていたい。



(2025年12月26日掲載)



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◆「起きようとしない男」
(2025年12月26日掲載)
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(2025年12月19日掲載)