オピニオン

世界は捨てたもんじゃない、かな?

 「まあ何だかんだ言ってもこの世界そう捨てたもんじゃないな、とトムは独り想った。人間の行動をめぐる大きな法則を、彼は我知らず発見したのだった。すなわち、相手が大人であれ子どもであれ、何かを欲しがらせるには、それを手に入れるのを困難にすれば事足りる」(マーク・トウェイン著・柴田元幸訳『トム・ソーヤーの冒険』)
 遠い昔、義務教育下で課された読書感想文の呪縛から未だ逃れられずにいるのか、それとも某出版社の販売戦略にうまく丸め込まれたか、夏も終わりに近づくと、どういうわけか、かつて読んだ「名作」と呼ばれる文学作品が無性に恋しくなる。で、今年、書店の「この夏読みたい名作コーナー」に平積みされていた文庫の山から「新訳」の売り文句につられてチョイスしたのが「トム・ソーヤーの冒険」(やはり出版社の甘言にものの見事に乗せられていたわけだ)。そして、冒頭に取り上げたのは、トムがいたずらの罰として課されたペンキ塗りの仕事を、通りかかる級友たちにまんまと押しつけてしまう、かの有名なシーンに続くくだりである。人間の本性をめぐるこの考察がいまさらながら妙に心に留まったのは、領土問題をめぐる隣国との意地の張り合いがクローズアップされる世相とシンクロしたせいか(もっともどちらのお隣さんも、それが簡単に手に入るとしても、「ならさっさとよこせ」とかいうのだろうけど)、それとも、あれほど欲しい欲しいと望んでいた政権なのに、手に入れてわずか3年足らずで「こんな厄介なものもういらない。誰でもいいから好きにもっていってくれ」といわんばかりの体たらくが続く政治の混迷ぶりを連日見せつけられたためか。いずれにしても、19世紀の文豪の慧眼ばかりが印象に残る今年の夏の読書感想文なのであった。
 さてと、夏が終われば読書の秋。今度は司馬遼太郎の幕末ものでも読むとしますか。何しろ次に控えるのは「維新」らしいですから。



(2012年9月21日掲載)



前後のオピニオン

喫煙者が減った後は……
(2012年9月28日掲載)
◆世界は捨てたもんじゃない、かな?
(2012年9月21日掲載)
薬歴指導料「41点」の意義
(2012年9月14日掲載)