オピニオン
偽造薬に聖域なし
まさか、というべきか、ついに、というべきか。国内の医薬品流通で初めて、偽造医薬品が発見された。正規の卸ルートに紛れ込んだものではなかったものの、インターネット等を介した不正な流通経路ではなく、国内法規で認められた合法的な取引きの範疇で発見されたことに、関係者は衝撃を隠せないでいる。
これまでも、海外ではしばしば偽造薬の問題は取り沙汰されてきた。たとえば昨年4月に亡くなった米ロック歌手のプリンス。米国検視当局は、常用していた鎮痛薬フェンタニルの過剰摂取が死因と発表したが、その後、偽造薬摂取の可能性が浮上し、当局が捜査しているとメディアが報じた。真偽のほどは定かではないが、それだけ、偽造薬が蔓延していることの証左でもあるだろう。
翻って日本では、幸いこれまで、偽造薬が大きな問題となることはなかった。それが油断につながったのだろうか。今回のケースでは、奈良県内の調剤薬局チェーンが、通常の流通ルートではない、いわゆる「現金問屋」と呼ばれる販売業者から購入した、ギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」から偽造品が見つかった。発見された偽造薬には添付文書もなく、外箱のない「ボトル状態」だったこと、さらには薬局でのチェック機能も働かずに、患者の手元まで渡ってしまったことなど、卸売販売業者、薬局の管理体制の杜撰さは批判されて然るべきで、薬機法違反の疑いも指摘されている。
今回の件を受け、日本薬剤師会、日本保険薬局協会、日本チェーンドラッグストア協会の3団体は、薬局間での取引の手順に関するGLを3月末までに3団体連名で策定する方針を表明。また、ギリアド社も、ボトル包装の製造を中止し、PTP包装に切り替えることを発表するなど、各流通当事者がそれぞれ、再発防止策に着手している。人、モノ、情報が、国境を軽々と飛び越えて拡がっていく現代においては、偽造薬に関しても、もはや聖域などないということを、流通にかかわる製・配・販、すべての関係者が肝に銘じるべきだろう。
(2017年3月10日掲載)
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