オピニオン

個人情報、価値とリスクに化ける

 4月の個人情報保護法施行にあたり、本紙ではシリーズで、斯道(しどう)の識者の興味深い話を拝聴している。これを機に、法設置の背景に触れておきたい。まずIT社会の進展で、情報は状況が揃えば簡単、瞬間、大量に盗まれ、漏洩する世になったというのが前提。直接的には、①住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の稼動②個人情報の裏マーケット価値の発現――がある。
 前者では、近畿地区の住民基本台帳データ持ち出し事件に触れねばならない。当該市でアルバイト中の学生が“持参したMO”にデータをコピーして持ち出した。ここで司直はハタと思う。「これは窃盗か?」「こんなの取り締まる法律、ないんじゃない?」と。結果、刑事訴訟は行われたが該者は不起訴。じゃあ、ということで被害者数名が「プライバシー侵害」で代わりに市を訴え勝訴した。
 後者には、裏マーケットにおいて個人情報が高値で流通することに気付いた反社会的組織が、 “草刈り場”よろしく荒稼ぎを始めた経緯がある(詳細は本号インタビューに譲る)。が、それにより不利益をこうむる個人を保護するにたる法律はないに等しかった。そんなこんなで、対応可能な法律を作ろうということに。
 背景は以上。さて、古来より “和を以って尊ぶ”遺伝子の染み込んだ本邦のコミュニティーは、契約社会にはあまりなじまない風土であるとも評されてきた。今後、事業者の防衛策として契約の徹底も必要になってくる。そんな意識の改革をもせまる法の下、義務を課せられる事業者の混乱は、いかほどか知らん。



(2005年4月15日掲載)



前後のオピニオン

医師免許更新制と日医
(2005年4月22日掲載)
◆個人情報、価値とリスクに化ける
(2005年4月15日掲載)
情報化時代の情報提供のあり方
(2005年4月1日掲載)