オピニオン

保健委員の今

 中学時代は保健委員だった。「楽そう」という理由で選んだのに、月1で発行される「保健新聞」の担当になり、記事を書く羽目になってしまった。テーマは風邪の予防や受動喫煙の害、インフルエンザについてなど。調べて書いているうちにジャーナリズムのような気持ちが芽生えてきて、なかでもHIV感染症にまつわる記事作成にあたっては、授業を休んで関係団体に取材を行うほどにのめり込んでしまった。「エイズ患者への差別をなくしたい」勝手ながら、そんな使命感に駆られていた。のちに職員会議で問題になってこっぴどく注意されたけど、何だか誇らしく思えて、少し嬉しかった。
 それから数十年が経って、何の因果か本物の記者になってしまった。日々、厚生労働省を走り回って、検討会や審議会、会見などに参加し、多くの意見や要望、批判などを聞いている。あの頃、不治の病だったHIV感染症には画期的な治療薬が開発された。そればかりか、日本初となり得る革新的な医薬品の開発は、今も進められている。有効性・安全性の高い薬の登場を今かと待ちわびている患者さんがいる一方で、薬の副作用で苦しんでいる方々もまた、少なからず存在するという事実。
 会議では、さまざまな立場の方から真摯な意見が述べられる。正直まだ分からないことも多い。だけど、自分が何を見つめ、何を伝えていくべきか、あらゆる視点に立って、徹底的に考えなければいけないと感じる。人々の真摯な気持ちに、そしてあの頃の自分に、恥じることがないよう、これから誠実に向き合っていきたい。



(2018年10月5日掲載)



前後のオピニオン

「近所の病院の敷地内薬局」第4報
(2018年10月19日掲載)
◆保健委員の今
(2018年10月5日掲載)
痛みの重要性
(2018年9月28日掲載)