オピニオン

我慢の日々のしのぎ方

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の動きが拡がるなかで、家で過ごすための、いわゆる「巣ごもり消費」が活発化しているという。缶ビールや冷凍食品などは言うに及ばず、室内用のトレーニング器具、さらには子供や家族が遊ぶためのアナログゲームやボードゲームなどの売れ行きも好調だとか。筆者はゲームにはまるで興味はないが(家飲みは確かに増えた)、野球ゲームにのめり込む主人公を描いた「ユニバーサル野球協会」(ロバート・クーヴァー著・1968年刊行)は、ゲームとは無縁の人間でも面白く読めること請け合いだ。
 3つのサイコロと、その出た目の組み合わせが示す現象(三振とかホームランとか盗塁とか)を記した一覧表に従い試合を進行させる自作の野球ゲームに熱中するあまり、現実と妄想の見分けもつかなくなってしまう主人公の傾倒ぶりは「ほんとにこのゲームくらい面白いものはない。実際の試合だってこれほど面白くはない―実をいうと、実際の野球はヘンリー(主人公の名前)にとって退屈なだけだった」という描写に端的に表れている。ここまでくると野球好きというよりはただのゲーム依存症だが、パソコンもスマホも、ましてやオンラインゲームもなかった時代に、仮想現実の世界を予兆させるような小説が書かれていたことに驚く。
 さて、「実際の試合は退屈なだけ」などという達観した心境に達していない多くの平凡なスポーツファンにとって、この春は言葉を失うような事態の連続だった。春の選抜高校野球が中止に追い込まれたのをはじめ、Jリーグは中断したまま再開のめどが立たず、プロ野球も開幕の見通しは立っていない。大相撲の春場所は、無観客ながらなんとか開催したものの、とうとう東京オリンピックまで1年延期されてしまった。SNSを通じた選手からの情報発信等の取り組みも拡がってはいるが、やはり試合の見られない春は味気ない。個人的には、休日に外出する機会がめっきり減って、その分本を読む時間が増えたのがせめてもの救いといえば救いだが。いっそのこと、この小説の主人公のように、大人しく部屋にこもって脳内プロ野球リーグでも開催しながら、我慢の日々をしのぐのも一興か。



(2020年4月20日掲載)



前後のオピニオン

新型コロナとお寺
(2020年5月8日掲載)
◆我慢の日々のしのぎ方
(2020年4月20日掲載)
新人と新型
(2020年4月17日掲載)