メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
透析と移植の医療費
 
   東日本大震災では、ケガや肺炎、低体温症等の治療で大混乱したが、もともと持病のある人たちの心労はより大変だったであろう。
 中でも透析患者については、今日明日の透析をどうしたらよいか、多くの施設の損壊が伝えられる中、それこそ一時は死を覚悟した人もおられたことであろう。
 一刻を争う中、関係者の甚大なる努力により、各地区毎の患者の集団避難が迅速に進められ、例えば、福島県南端の工業都市いわき市からは500名もの患者が、瞬時に集められ、九死に一生の幸運を手にしている。同様なことが他地区でも次々と実施され、その手際の良さは実に賞賛ものである。
 国家課題・慢性腎臓病の大量患者を背景に毎年増え続けてきた透析患者数は32万人をピークにようやく頭打ちしそうである。2010年は前年より54名の減少がみられ、特に、糖尿病性腎症からの透析導入患者が初めて減少に転じたことが注目された。
 これには腎移植が増加した影響もある。とはいえ移植数は2010年に過去最高の1484例の実績があるものの、透析新規導入患者が年間3万8000例もあることから、その実質的影響は、今のところ極めてわずかに留まっている。
 大量の患者を抱える慢性腎臓病の医療費は膨大であり、更にその悪化による透析及び移植に関わる医療費を加えると、まさに国家的・国民的課題であることの意味をあらためて痛感する。
 透析に関わる医療費は1人当たり年間480万円で、開始日から毎年同一費用が続く。一方、移植医療費は、最初の1年間は、生体腎の場合667万円、死体腎で853万円である。だが、2年目からはほとんどが免疫抑制剤費ということで、年間の経費は160万円で済む。
 つまり、当初2年間の費用合計は透析も移植も両者ほぼ同額となり、3年目からは移植患者の方が320万円安くすむ。臓器移植法が改正された今、献腎移植の増加が、この観点からは大いに望まれる。
 最近、世界的に末期腎不全原因の第1位を占める糖尿病性腎症治療において、新たな有力手段が報告された。これまでの腎機能低下を防止するという受け身の治療から、低下した腎機能を増進させる積極的な治療への可能性が示され、大いに期待される。

(2014年1月10日掲載)
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