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アメリカでは,乳癌は「女性の敵」として大変嫌われている。なんせ、罹患者が約17万人(02年実績)もいて、癌の部位別統計では全体の30%強と圧倒的に高率を示しているからだ。 乳癌にかかる人が日本の数倍も多く、レーガン元大統領夫人をはじめ、歴代の大統領夫人や副大統領夫人が、次々と罹患する状況がアメリカ人女性に少なからずショックを与え続けている。 一方、日本では、アメリカほど多くはないにしても、一連の欧米化によるメタボリックシンドロームの増加に似て、ジワジワと乳癌患者は増加中である。いずれ「日本女性の国民病」になるかもとさえ危惧されている。 そうはさせじと、早期発見・診断・治療のために、検診が大いに奨励されたけれども、まさに馬耳東風。約10%という低率で惨憺たる有様。有名芸能人が乳癌罹患を公表すると、その時は急激に受診ムードは高まるものの、すぐに元の木阿弥。 対して、アメリカ女性の罹患緊迫感は切実で、受診率は現状約70%、目標80%と実に意欲的。啓蒙も大変積極的で、発見が遅れることにより国の治療費を使うことになるより、早期発見、早期職場復帰を目ざす方が、個人的にも国家的にもより経済的と訴える。実に前向きな考え方で、これが高受診率の背景になっているようである。 こうした努力の成果として、最近は、罹患率、死亡率共に減少傾向がはっきりしてきた。 なかなか進まない日本の極端に低い受診率の反動として、ケガの功名と言おうか、罹患後の治療術が大進化を遂げている。検診がだめなら治療で、ということなのであろうか。 現在治療現場でとられている、手術にしろ薬物にしろ放射線にしろ全てが10年前には影も形もなかった手法ばかりであり、その変容は実に目を見張るものがある。 例えば薬物療法に目を向ければ、大規模臨床試験が次々と実施され、現場治療の標準が常に塗り変えられ、成績がドンドン上昇している。 だが、疾病対策の最大の戦略が予防にあることは論を俟たない。 日本女性が予防にもしっかり目を向け理解が深まれば、将来、乳癌が国民病になるなんてことは考えられないのだが。
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