オピニオン

疑惑を見る目

 ノバルティスファーマの降圧剤「ディオバン」(一般名=バルサルタン)の医師主導臨床試験を巡るデータ改ざん疑惑に関して、厚生労働省の「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」が先月に報告書を取りまとめた。完全な真相解明には至らなかったものの、ノバルティス社から多額の奨学寄付金が研究実施大学に提供されていたことなどから、今回の事案に対して組織的な関与があったと判断。さらには大学側に対しても利益相反のチェック体制がずさんだったと厳しく批判した。
 最近ではiPS細胞に次ぐ新たな万能細胞として、理化学研究所を中心とした研究チームが発見したSTAP細胞を巡る試験でも、様々な疑惑が取り沙汰されている。チームリーダーが女性ということもあり世間から大変な注目を集めたが、論文に使用された画像データに不自然な点が見つかったことなどから、論文撤回の是非が問われる事態にまで発展している。誰もが新たな発見と更なる発展を待ち望む医療分野にかかわる研究にこそ、携わる者の倫理観と何重ものチェック体制が必要だ。
 とは言え新しくて珍しいものに飛びついてしまうのは、人間の性なのかもしれない。「現代のベートーベン」として名を馳せた稀代の作曲家も、結局は別の人が作っていた。マスコミも随分と才能を祭り上げていたが、本当に誰も気が付かなかったのだろうか。もしも胡散臭さを感じながら見て見ぬふりをしていたのなら、それこそ目も当てられないとしか言いようがない。



(2014年4月4日掲載)



前後のオピニオン

なんだ、これは!
(2014年4月18日掲載)
◆疑惑を見る目
(2014年4月4日掲載)
検査薬のスイッチ化に高まる期待
(2014年3月28日掲載)