オピニオン  
 
売上減は受動喫煙対策のせいではありません
 
   贔屓にしていた近所の中華料理店が閉店した。上海出身の老夫妻だけで切り盛りしていた、お世辞にもお洒落とはいえない(どちらかといえば殺風景な)店だが、素材に対する知識と、素材のよさを最大限に引き出す料理の腕前は確かだった。引退が惜しまれる。
 たとえばある時、こんなことを教えてくれた。「冬のニラは柔らかいけど、夏のニラは硬いから、よく炒めないとダメ」。家庭でも生かせるちょっとした知恵だが、すべての料理人が習得しているかは疑問だ。それが証拠に、会社近くの中華屋では、夏になるとニラレバ炒めのニラが、閉口するほど硬いことがある。
 実はこの店を贔屓にしていた理由はもうひとつある。「全面禁煙」だったのだ。ランチタイムだけでなく、ディナータイムも。有名店でもなく、しかも住宅街にありながら、近所の口コミだけでいつも賑わっていたのは、料理そのものもさることながら、食事をする環境もまた、「味」を引き立てる重要な要素であることの証しだろう。
 さて、支持率急降下に悩む首相が内閣改造を断行し、厚生労働大臣には加藤勝信氏が就任した。年末には来年度予算編成、診療報酬・介護報酬同時改定が待ち受けるが、新大臣が真っ先に直面する難問は、受動喫煙対策だ。東京五輪に向け待ったなしの状態だが、先の国会では法案提出を断念。膠着状態をどう打開するのか、新大臣の手腕が試される。
 ところで、これは「元喫煙者」としての私見だが、受動喫煙対策で「売上が落ちる」という飲食店は、単に味に自信がないだけではあるまいか。なぜなら禁煙してまず実感したのは「味覚が戻った」という感覚で、喫煙のせいで麻痺していた微妙な味を感じ取る能力が禁煙によって回復したのか、それまでの味付けが、何もかもしょっぱく感じられた。だから、このことから類推するに、受動喫煙対策で売上が減少するとすれば、それは喫煙者相手に味が濃いだけの料理でお茶を濁していた店の姿勢に問題があるためで、店のありようを改めない限り放っておいてもいずれ淘汰されるのではないか、などと乱暴な見方をするのは、「新薬を出し続けられない企業は退場するしかない」「安定供給できない企業は淘汰されて当然」などと言われ続けている業界に身を置く者の偏見だろうか。

(2017年9月8日掲載)
前後のオピニオン
小田原のういろう
(2017年9月15日掲載)
◆売上減は受動喫煙対策のせいではありません
(2017年9月8日掲載)
スイッチとスイッチ
(2017年9月1日掲載)