オピニオン

「言葉を味わう」

 「サロン・デュ・ショコラ」は、世界トップクラスのショコラティエが一堂に介する、チョコ好きにとって夢のような祭典。会場は大盛況で、日本初出展のショコ オ キャレや久々の出展となるフランク・フレッソンなど、話題の商品は売り切れも出ている。そんな中でひときわ気になったのが、ジャン=シャルル・ロシューのボンボンショコラ・アソート。曰く、「忘れることのできない複雑な香りたち。食べる人の本能や、官能を解き放つ」――。この催しの魅力の一つである、ショコラを表現する名コピーだ。
 味覚を言葉で表すことは、書き手にとってもっとも難しいジャンルの1つだと思っている。特にカカオの奥深い繊細な表情は、豊富な語彙と、時に突拍子のないテクニックでその差異を見せることが重要だ。サロン・デュ・ショコラのパンフレットは、眺めているだけで発見が多く、いち書き手として嫉妬せずにいられない表現の宝庫。導かれるように、ロシューのアソートを購入した。「ショコラを至福の芸術に」というコンセプトで生み出される彼の作品の、一粒に込められた未体験を想像すると、知らずと気持ちがたかぶってしまう。
 カカオには気持ちの高揚感をもたらす成分が備わっているという。「フェニル・エチル・アミン(FEA)」というホルモンの分泌がそれに由来し、恋をしている人が綺麗になったりするのは、FEAの影響があるとかないとか。「カカオを食べる=綺麗になる」と解釈するのは安直すぎるが、少なからず、後ろめたさは放置して、ショコラとともに言葉を味わうのが楽しみだ。



(2019年2月8日掲載)



前後のオピニオン

武田薬品とサンバイオ②
(2019年2月15日掲載)
◆「言葉を味わう」
(2019年2月8日掲載)
「迷路のなかで」
(2019年2月1日掲載)