メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
病気はお天気次第
 
   「膝が痛みだしたから、そろそろ雨がくるかもヨ」。
 リウマチを患っているおばあちゃんが暗い顔をして云う。いつも気象予報士顔負けの絶対の正解率だからスゴイ。
 実際、リウマチ患者を気象実験室の中に入れ、気温、湿度、気圧をさまざまに変化させたテストでは、気圧を下げ湿度を上げた状態にするとリウマチ症状が悪化することが確認されている。
 天気予報の良し悪しで病気の備えができるのは、はなはだ好都合である。持病の急性増悪に予め備える、天気予報を体調予報なり病気予報として捉えることは“医学天気予報”として、或いは“健康天気予報”として研究されている。
 新聞やテレビなどメディアが毎日天気予報をこと細かに提供してくれるのは、どこの国も普通に見られることだが、ドイツでは天気と病気発症との強い相関関係をもとにした「病気天気予報」なるユニークな報道が毎日実施されている。頭痛、不眠をはじめ抑うつ感、いらいら、度忘れなど精神的影響が約半数を占め、項目的には十分充実しているようである。
   そして、カナダのロッキー山脈のふもとでは、憂うつを運ぶ特別な風に悩まされる。春まだ浅く山肌にたっぷりと雪が残る時期、シヌークと呼ばれる悪魔のフェーン風が吹く。というのは、この風が吹き荒れると、交通事故は起こるわ、犯罪が増えるわ、自殺が増えるわと警察官がやたらと忙しい妙な季節となるからである。
 通常云うところのフェーン風は乾燥した熱風であり、特段精神的影響を及ぼすものではないが、この特殊風は、本来の熱風が雪を融かすことで湿度を帯び人に不快感を与えてしまうものらしい。そのためいらいら感がつのり、人に良からぬことを多発させてしまうのである。
 こうした状況は、日本に於ける梅雨の時期、多くの人が気分がすぐれず、うつ病患者が急増する現象と酷似している。なお、この梅雨実は世界広しといえども日本と中国(揚子江流域)、朝鮮半島の三地域に限定されている。
 日中の温度差が極端に大きく、雨がシトシト続く。結果、日照時間が短くなり人を憂うつにさせるのである。うつ病患者に人為的に行う高照度光療法があるのはその為である。
 気象が生物全般に及ぼす影響について研究する学問を「生気象学」と呼び、既に紀元前五世紀、医聖・ヒポクラテスの時代からあった。最近環境問題が重要視される中、あらためて生気象学への関心が高まっている。

(2005年9月30日掲載)
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(2005年10月7日掲載)
◆病気はお天気次第
(2005年9月30日掲載)
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(2005年9月23日掲載)