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昔ならどうにも助からなかった命でも、医療の驚異的な進歩でみごと乗り越えることが多い。 わが国が世界一級の長寿国になり得たのもその証左の1つであり、また、小児期、短命を覚悟したケースでも生命予後が劇的に改善されている。 一例を挙げれば、幼児期発症の急性白血病では、約7割が成人を迎えている。こうして小児期に慢性化した疾患を持ちながら、成人へ移行するケースは世界的に極めて多く認められるようになり、アメリカでは17才の思春期の子の約17%がそれに該当、社会的にも深刻な問題を提起している。 日本は、誕生時10人に1人が2500g未満の低出生体重児。さらに100人に1人が1500g未満の極低出生体重児であるが、生存率は年々向上、なんと701g以上で90%以上が生存という好成績を誇る。 低出生体重児の生存退院率を、海外の報告と比較すると、アメリカ66%、オーストラリア67%に対し、日本は85%。このこと自体はすばらしいことだが、一方で辛い難題が。 例えば、救命はできても慢性肺疾患を抱えて人工呼吸器を着けたまま退院する子が年間100~150人もでて、しかも増加傾向にあるというのがなんとも悲しく複雑だ。 低出生体重児の障害は、肺疾患に限らず、脳性麻痺(約10%)、発達遅滞(約25%)、注意欠如・多動症、自閉症など多くのハイリスクが報告されている。そのうち、思春期児童の注意欠如・多動症に対して使用される治療薬の処方件数が、最近6年間で2.5倍になったと報道された(2015・1・15)。その背景に(超)低出生体重児増加の影響が見てとれる。 さらには、成人期に至っても、特有の様々な疾病(メタボ、腎機能障害、精神疾患など)の併発が知られていて安まる暇がない。 現在、助成対象の指定難病は110疾患あり、最終的には300になる予定だが、小児の慢性疾患患者数としては、難病と重い知的障害併せて約60万人いるとされている。 小児科での治療対象は、一般的には思春期までとされているが、見離せない医師が、ずるずると引きずる傾向が続いている。 だが、患者実数の増加、或いは高血圧やがんなど成人特有の疾患への対応に、小児科医として限界が生じている。 こうした移行期をアメリカでは「トランジション」と称し、小児科医、家庭医、内科医の各学会が次のような目標を2002年に共同発表した。 「小児患者が途絶えることなく、高品質で適切なケアを受け続け、人生を精一杯全うする」 だが、この問題の難しさは尋常ではなく、10年以上経過した今日でも、格別の進展がみられない。
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