メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
21世紀最大の疾患「血栓症」
 
   ミスタージャイアンツ長嶋茂雄氏が脳梗塞で倒れ、手足に多少の不自由さは残ったものの、時々は元気な姿をファンの前に見せてくれている。
 それも、発作時脳神経外科的処置が迅速に行えたからで、場合によっては寝たきりの不運に陥っていたかも知れなかったのだ。
 急性期脳卒中患者が救急搬送され、結果的に寝たきりから救われるのは、まず血栓溶解薬(tPA)のお陰だといって間違いない。
 だが、最近の厚労省の調査で大変気になる報告があった。この薬剤は、05年に大いに期待され登場したものであるが、有効性と共に問題になるのが副作用・出血性合併症の存在。
 07年の調査で、脳卒中患者の受け入れ病院中、専門医不足の影響により、24時間体制でこの薬剤療法を実施できる病院は、残念なことに全体の3分の1にすぎなかった。
 1年後、08年ではなんと更に悪化、全体の1割の病院が脱落したというのである。
 3大死因といわれるもののうちがん死を除けば、脳卒中も心臓疾患も、共にその根源は血管の劣化にある。もし、血管さえ若々しさを保持できるのであれば長寿は間違いないのだが。
 現実は、血管は加齢と共に硬化(アテローム硬化という)し続け、血栓症(アテローム血栓症)が発症しやすくなる。
 心筋梗塞、脳梗塞等により命を落とすケースが増し、結果、これらが死因の約3割を占めることになる。
 脳と心臓の末梢の動脈血栓症は、いまや世界でも3人に1人がこれで亡くなる状況にあり、正真正銘「人類最大の疾患」といわれる恐怖の存在に成り上がってしまった。
 血栓という言葉なり現象は、一般人にはなじみ難い存在である。だが、その重大性を知るにつけ、専門分野では早くから「21世紀は血栓症の時代」と注視してきた。
 当然、その背景にはメタボの急増があり、更には超高齢社会の到来、動脈硬化がある。
 脳梗塞や心筋梗塞は動脈の血栓だが、最近は静脈血栓として肺梗塞の急増もみられ、あなどれなくなってきた。
 幸い、血栓症に対する臨床研究は急速に進んでおり、著しい成果が得られている。特に注目を浴びているのは、血栓形成を標的とした薬剤の開発であり、それを駆使できる医療態勢が一日でも早く確立することを期待したい。

(2012年11月5日掲載)
前後の医言放大
難聴は認知症を進行させる
(2012年11月30日掲載)
◆21世紀最大の疾患「血栓症」
(2012年11月5日掲載)
胃がん医療費大膨張目前
(2012年10月15日掲載)