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がんは、昔と比べれば緩和、緩解できる症例が大幅に増え、罹患の怖さは相当軽減された。とはいえ、相変わらず死因No1の地位は堅持されていて、がんと宣告された時の衝撃は極めて大きい。 がんと告知され、いざ積極的治療と目論んでみても、なかなか心の底から闘病精神の沸き上がる患者は数少ない。精神的に滅入ってしまう例が少なくないのだ。 特別、その落ち込みがひど過ぎると、治療医としても為す術がなく、精神科医の応援を頼むことになる。 そうした症例数、或いはその必要性が高まる中、最近「精神腫瘍学(サイコオンコロジー)」という新医療分野が誕生した。 がんによって発生した精神的な問題を、より専門的視点から解決してあげようとするジャンルである。がん患者のみならず、心の底から心配する家族の精神的苦痛を少しでも軽減し、最悪ケースとしての自殺等の不幸をなんとしても避けようとする目的をもつ。 このジャンルで特に研究を深めた医師は「精神腫瘍登録医」と呼ばれる。 患者が病に勝てず、不幸にして返らぬ身になった時、愛する家族は深い悲しみのドン底に沈む。そんな状態に陥った遺族には、しっかりとした精神的な支えが必要である。そこでずばり「遺族外来」なるものが、横浜市立大に、日本で初めて開設された。 その後、埼玉医大にも設けられ、日本各地から治療に訪れている。当然の如く、患者の半数近くはうつ病を発症しており、列車に飛びこむ寸前のケースのあったことなどが、生々しく報告されている。 複雑高度な社会情勢の中、大学病院を先頭に、高度に研究された治療分野が新設されることは大歓迎である。 一方で、全国初の「てんかん科」が、東北大に最近うぶ声をあげた。 8月から診療を開始しているが、“1時間外来”との異名もあるほどたっぷり時間をかける。治らないとあきらめていた患者にも、適切な治療を施せば、大部分の発作が止まり通常の日常生活が送れる道のあることを広めていくという。 てんかん患者にしろ、がん患者にしろ、その悩める家族も含めて、救いの手の広がる医学研究の進展は実にありがたい。
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