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美人薄命という言葉があるように、原則として天は二物を与えずということになっている。薬でいえば、よく効く薬ほど強い副作用が現われたりして〝両刀の剣〟なんていう表現がよく使われる。 そんなものの一つに「サリドマイド」があった。約半世紀前、ドイツではよく効く睡眠薬として開発されたが、恐ろしい副作用が発現した。世界中にアザラシ様奇形児を次々と生みだし大センセーションの嵐をまき起こした。日本では、審査・製造許可の甘さが糾弾され、副作用発生後の対応も杜撰だったため、被害者数が多くドイツに次いで世界第二位の不名誉をあげてしまった。 もう二度と日の目を見ることはあるまいと思われていた、この「悪魔の薬」が、いまなんとみごとに復活を果そうとしている。きっかけは、ハンセン病やエイズに対する有効性の発見にあった。さらには、現代悩みの難病、自己免疫疾患やがんに対してまでも優れた薬理作用が確認され、ドラキュラの如き蘇りを果そうとしている。「がん治療で個人輸入急増」と大衆紙は大きく報じ、厚労省は急遽使用指針の判定等対応に追われている。類似例として、最強の毒物が顔面神経痛の希少特効薬として注目を浴びたりもしている。極少量を上手に利用すれば絶妙な価値を発揮することも少なくないのだ。 サリドマイドは、かつてアメリカだけがその安全性に疑問を抱き、FDAは承認せず、結果被害発生をくい止めることができた。そのFDAが今回は、この薬の持つ神秘性、貴重性に注目し、厳しい管理体制の下で販売を承認している。べーチェット、エリテマトーデス、リウマチ、クローン病等々の厄介な慢性炎症性疾患に高い有効性が示されており、今後の有益な治療方策の確立が期待される。そして、血管新生抑制作用、及び免疫活性化によるがん治療薬としての期待もますます高まっており、悪魔転じて天使が舞い降りてきた感もしないではない。 ただ管理は十分尽さなければならない。50万錠以上もの個人輸入等で、昔お騒がせの被害が、いつかどこかで再発生しないとも限らない。やはり両刀の剣としての見地も忘れることなく、有効適切な管理がしっかりなされなければならないだろう。 とにかく時代は変わった。かつては美男・美女というだけで立派な存在価値を有していたが、現代は一変。ベッカムやシャラポアなどに代表される如く、いまや幾つもの有能な条件を同時に持ち合わせることが少しも不思議な現象ではなくなっている。
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