|
“治療半ばで強制退院” 従来ならもう少し入院加療が必要と思われる症例でも、昨今は“短縮化政策”で早期退院させられる患者が相次いでいる。 病状悪化、再発が心配されるが、どっこいあにはからんや、回復を早め治療成績を高めるという思わぬ効果を挙げている。 そもそも、この予定外効果発見のきっかけとなったのは第二次世界大戦中、苦しまぎれにとった患者の扱いにあった。次々と送られてくる傷病兵が多過ぎ、術後ある程度回復した時点で、やむなく早期歩行・離床・退院を強制的に実施せざるを得なかったのである。 大手術の翌日即離床という冒険が、少しも危険なものではなく、新鮮で貴重な驚きが当時の医学界にもたらされたのである。 この成績は傷病兵に対してだけに留まらず、脳卒中という脳血管障害患者の急性期、及びリハビリの入院期間短縮という異質なケースでも全く同様な効果の得られることが判った。 脳卒中の特異性としては、後遺症を残す心配があり、急性期治療のあと転院リハビリのできる後方病院での管理が必要となる。 ここに96年と06年における、急性期病院とリハビリ病院それぞれの在院期間を比較したデータがある。それによると、急性期53日が31日に、リハビリ期も93日が58日に短縮され、つまり、合計期間として146日が89日に大幅短縮されている。そして、驚くべきは、脳卒中治療成績が著しく改善されたという事実だ。 こうしていまや、急性期病院での在院日数を極力短くし、リハビリ病院へ早く送りこむほど回復のよいことが既成の事実として確立したのである。 これまで長いこと患者は、できるだけ安静にベッドに寝かしつけられ、栄養をとりジッと回復を待つ姿勢を強いられた。運動に対して徹底した消極的指導であったが、近代医療としてはいまや全くの非常識とされる。 「できれば寝ながら食べるように」とまで云われた絶対安静の象徴的疾患・肝臓病及び心臓病についても、今では適度な運動が奨励される方向に完全に変った。 平均在院日数の短縮問題は、当初は医療費増高に対する抑制策として登場したものだが、いざ実施してみると、“治療効果向上”という思いもよらぬ副次効果を得られることとなった。この一石二鳥は、医療界にとっては近来にない大成果といえよう。
|