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太古の昔なら、当然深い眠りの底にあるはずの深夜、モゾモゾと現代人は動き回る――こうこうと光り輝く人工光の元で――。 夜間、本来閉じているべき人の目に、無遠慮に入りこむ人工光が、我々の身心に如何に大きな悪影響を及ぼしているか、近代医学は次々と明らかにしている。 光に乱された生活は、生体時計の同調に大きな狂いを生じさせる。それにより、さまざまな生理現象の相互関係を破綻させ、眠気のアンバランスや疲労感、更には、食欲、意欲の減退等を起こさせ、ヒトから生気を奪いとる。 人工的に明るくされた夜は、睡眠ホルモン・メラトニンの分泌が抑制され、大切な抗酸化作用が働いてくれないため、多くの弊害が発生する。個々のからだの弱点をつき、発病を引き起こしたり、加齢を増長させたりとロクなことがない。 また、このメラトニンは、1才から5才の幼児の頃に、夜間暗闇の中で、生涯で最も多く分泌される極めて大切な生命維持物質だ。 「夜寝る子は育つ」とはこうした重要な現象が、見えないところで厳粛に行われていることを示す大切な教えであり、全ての保護者はこのことを十分理解し、忠実に行動しなければならない。 親の勝手なペースで子どもをいつまでも夜明るい環境の中に不用意に引き入れないよう注意しなければいけない。 さて、週間労働時間が50時間を越えることは基本的に異常レベルとされているが、日本は世界でただ一つ、その労働者比率が25%を超える「残業立国」である。 総務省は、そんな国民を「寝不足で懸命に働く日本人」と、いわば自虐的に捉えている節がある。悲しいことに、そこまで努力し、家族と接する時間を大幅に削ってまで頑張っているのに、仕事の効率は悪く、労働生産性は先進7か国中最下位というありさまだ。 ヒトは、夜は目を閉じしっかり休み、翌日は日の出と共に働きだすようプログラムされた社会的動物である。24時間周期の地球上で、けじめをつけて生かされている立場をしっかり認識すべきである。 それなのに、近代的発展という誤った美名のもとに、多くの国民が不健康な生活を強いられているのはなんともなさけない。 「夢は夜開く」という有名な歌詞があるが、すてきな夢は深夜十分整備された睡眠環境中でぐっすりやすんでこそみられるものと心得たい。
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