メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
「気のせいでは」の慢性腰痛
 
   「腰が痛い」と訴える人は実に多い。さまざまな検査を受けるものの、医師からは「身体的な異常は認められません」と言われることがまた実に多い。
 痛みが相変わらず続くので、なおも医師にくい下がるものの「気のせいです」などと言われなかなかラチがあかない。
 こうしたケースは「慢性腰痛」と言われ、いろいろある慢性痛の中でも最も頻度が高く、他の関節痛患者等より心理社会的因子が大きく関与している。つまり、腰痛を訴える患者では、心理的原因のないケースはむしろ少ないとさえ言われる。
 患者とすれば痛い、とにかく痛いのであってなんとかして欲しい。そんな状況の中多少救われるニュースは、モヤモヤ患者の苦痛に理解をもち、研究する医師が少なからずいて、発痛機序の解明、治療方法等にそれ相応の進展がみられることである。
 近代の精密な検査機器をフルに活用しても、身体的な異常が発見できないとなると、当然その行きつく先は心理・社会的要因の訴求。その全てをバランスよく俯瞰する極めて高度にして精緻な診断・治療能力が要求される。
 その中心的役割はペインクリニック医が果たしつつも、同時に、関連各科の協力がなくしては真の医療解明にはつながらない。
 心因性疼痛や、心理要因が伴う疼痛は、鎮痛薬や神経ブロックは適応外である。心理的カウンセラーの立場が必要となり、患者の訴える痛みの存在を正面からしっかり見据えてかかる。それによって、真の科学的治療がスタートすることになる。
 同時に、その痛みが心因性であることを患者にしっかりと自覚させ、その上で、家族の理解、支持を得ることが極めて重要なポイントとなる。
 実際、慢性痛の場合は、非常に高い割合で精神障害の認められることが多く、精神科医の積極的関与が必要不可欠である。
 愛知医大・痛みセンターに於ける実例としても、精神科に紹介された患者の、なんと9割近くが、痛みの背景に精神障害のあることを指摘されている。
 また、うつ病患者の6割が痛みを訴えるとの報告があり、抑うつ症状がでてくると、疼痛の閾値が下がり、少々の痛みにも過敏に反応してしまうことになりやすい。
 慢性ストレスが慢性疼痛発症へとつながり悪循環をきたす。つまりは、抗うつ薬やら抗てんかん薬やらの精神科領域の薬剤を適切に使用することも十分想定しなければならないこととなる。

(2015年2月13日掲載)
前後の医言放大
「五十肩」が超短時間で治癒
(2015年2月27日掲載)
◆「気のせいでは」の慢性腰痛
(2015年2月13日掲載)
インターネット依存症の激増
(2015年1月30日掲載)