メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
インターネット依存症の激増
 
   数多く病気がある中、日本における死因で不動の第1位を続けるがん。これに対する治療は相も変わらず苦戦中だが、それでもさまざまな治療法が次々と考案されており、いずれ克服できる日が来るのでは、と期待を抱かせる。
 現在苦戦中の難病は他にも数多くあるけれども、今特に取り上げたいのは各種依存症。中でも最近急激に患者が増えている「インターネット依存症」には、専門家もホトホト手を焼いている。
 インターネット依存とは、端的に言えば、毎日の生活の中でインターネット使用の制御がきかなくなり、問題であることを自覚していてもネット利用を止められなくなる状態をいう。
 特徴として4つの構成要素がある。まず、“過剰使用”があり、次に“離脱状態”として、使用できない時の怒りとか抑うつ症状がある。さらに“耐性問題”として、よりよいコンピュータやソフトウェアを求め続け、4つ目は、さまざまな″悪影響″を及ぼすこととして、口論やうそつき、会社の業績悪化、孤立、疲労などがある。
 依存症の治療といえば、日本では久里浜医療センターが研究の中心的存在。
 これまでアルコール依存症の治療で多くの実績を積み上げてきたが、急増するインターネット依存患者に対する治療のため、急遽3年前に、専門外来をわが国で初めて開設。
 2008年、わが国の一般成人を対象とした調査によると、その2%、約270万人が治療の必要な患者と推計されている。
 さらに、2013年、中高生対象の調査では、男子の6・4%、女子の9・9%に依存の疑いがもたれ、患者数として52万人と推計されている。
 “学校に行けない”“成績の大幅低下”などで学校生活に決定的ダメージを与えており、医学的な救いの手を差しのべなくては、元に戻る保証が全くない。
 こうした厳しい状況で久里浜の診察予約は半年先まで満杯、専門医養成が急務となって
いる。
 現代社会においては、ネット抜きの生活は考えづらく、ネットの時間を減らすとか、使うネットの種類を限定するとかの曖昧な治療目標を設定せざるをえない。
 今やネットは生活必需品となっており、厳密な禁ネットにすることは事実上不可能。せいぜい節度をもった“節ネット”を現実的な目標として設定せざるをえない。

(2015年1月30日掲載)
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「気のせいでは」の慢性腰痛
(2015年2月13日掲載)
◆インターネット依存症の激増
(2015年1月30日掲載)
21世紀型“腰痛”への取組み
(2015年1月16日掲載)