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日本の病院・診療所における出産数を曜日別にプロットしたグラフがある。(04年12月分)ウィークディが連日3千強であるのに対し、土曜では約2千5百、日曜では約2千2百強と明らかに少ない。また、出産時間についていえば、日中に圧倒的に集中しているのが明確にみてとれる。 一方、助産所での分娩は、曜日、時間には一切無関係、大きな差異は認められない。 お産に対しては、その時間を適宜調節できる「陣痛促進剤」の存在が知られているが、この使用を巡ってしばしば批判的な意見が寄せられる。 実際、ある協議会では次のような指摘があった。〈陣痛分娩促進剤等の薬を使って、平日の昼間に無理に生ませようとしている。その結果、数々のお産トラブルが頻発している〉となかなか手厳しい。 全科中、最も医療訴訟件数の多いのが産婦人科領域であり、こうした指摘があると、ついつい「やはりそうか」と、ついついうなづきかねない。 だが、産婦人科医療の背景を冷静に分析してみると、そう単純に結論づけるわけにはいかないことに気付く。 助産所はもともと正常分娩しか扱わない施設であり、薬剤の使用は一切必要ない。対して病院は、正常と併せて異常分娩を当然扱う。専門医が最も目が届く平日、日中に出産を計画的に調製するのは実に自然な流れであり、批判されるべき行為ではない。 そもそも陣痛促進剤の使用理由は、胎内過熱、胎盤機能不全、遅延分娩等による母体・胎児の異常を防ぐためであり、医学的には十分すぎるほど意義深いものである。 更には、日本の帝王切開率が17%(05年)で、一見高率のようだが、欧米では24%前後もあり、何ら問題にするにあたらない。 日本の産婦人科医療は、医療訴訟にもまれながらも急速な進化を遂げてきた。その成果は大いに賞讃されて然るべきであろう。 妊産婦死亡率については、50年161(出産10万対比)に対し、04年には4と驚異的に改善、周産期死亡率についても、50年の47から04年には3と世界トップの成績をあげている。 病院における陣痛促進剤等の使用を、ただ単に、医師が休日ゆっくり休みたいからと邪推したりして一方的に批判的に見ることは、激務を続ける医師に対して、失礼であり適切ではない。
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