メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
プロスポーツと医療
 
   いよいよ野球シーズン。新生星野ジャパンも確立、大いなる活躍を期待したい。王ジャパン悲願の世界制覇は実に喜ばしい限りであった。各国のトッププレイヤーは、実にダイナミックで華麗な妙技を披露してくれたが、プロスポーツ選手の高度な技術は、巨大な報酬として評価される。野球界では、ヤンキース・ロドリゲス選手が、およそ30億円という途方もない年俸を誇る。
 サッカーにしても、バスケットにしても、プロスポーツ界では、優れた技術を発揮できれば、それに応じた破格な報酬が約束される。
 翻って、医療分野ではどうか。保険医療制度のもとでは、超名医の高度な見立ても、神の手と評されるメスの力も、低級ヤブ医のそれと基本的には同等に評価され処理される。
 こうした矛盾は、かねてから医療界にくすぶっている課題であるが、アメリカでは最近この仕組みを考える大きな改変劇が出現した。
 つまり、診療成績によって支払報酬にメリハリをつけようとする試みである。「ペイ・フォー・パフォーマンス」と称して、質の高い技術にはそれなりの高い報酬を与えるべきという、いわばプロスポーツ界と相通ずる考え方。当然といえば当然、なぜ今頃という思いがしないでもない。
 大手保険会社の査定により、まず治療成績のよい優良施設にはボーナスという形で別途支給される方式がとられ、逆に成績不良施設にはペナルティが課せられるという極めてシンプルにしてユニークな管理方式である。
 こうした革新的方式の運用を成功させるには、如何に正確に診療成績を計測できるかが安定化を図る重要な課題。政府が主導する前に、学会等専門家集団が、自主的に方策を体系化することが望ましい。
 そうした中、臨床腫瘍学会や胸部外科学会が、独自の指標整備にのりだし、この新しいシステムを後押しする方向がでてきて期待度が高まっている。より高い公式的尺度の確立により、医療の質の向上に結びつけば願ったりかなったりである。
 そうはいってもアメリカには無保険者が4千5百万人もいて、社会医療制度としてはなかなか一筋縄ではいかない。
 「欲しいものがあれば、それぞれが努力をして勝ちとればよい。だが、一律に手に入れられる仕組みを国が用意する必要はない」
 こんな徹底した自由主義の考え方では、アメリカに国民皆保険実現の道は遠い。
 日本の1人当たり医療費はアメリカの半分以下であり、長寿社会の安定実現のためにはこの皆保の原則を崩さずに維持できれば最善。
 医療報酬にプロスポーツ指向でメリハリをつけるのもよいが、世界に誇る日本の医療の本質が大きく変わってはならない。

(2007年5月11日掲載)
前後の医言放大
損して得とれ
(2007年5月18日掲載)
◆プロスポーツと医療
(2007年5月11日掲載)
日本の難民
(2007年4月27日掲載)