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「近代医学の父」といわれる著名なカナダの内科医オスラー博士は、数々の金言を残しているが、その中の1つに、一見奇妙に思えるものがある。 「高齢者にとって肺炎は友人である」というもの。 高齢者にとって、肺炎に罹るということは高率で死につながる恐い疾患。それを友人とのたまうとは何ごとぞ。 真意はこうだ。高齢者の肺炎は比較的苦しむことなく、ポックリとあの世にとびたてるから、というわけ。 実は、この高齢者と縁の深い肺炎が、最近3大死因の1つにくいこみ、歴史的変動事件と大変注目を浴びている。 厚労省は、2011年の死因として、肺炎(12万4700人)が脳血管疾患(12万3800人)を僅かながら上回り、がん及び心疾患に次いで第3位になったと発表した。 死因の年次推移グラフをみると、脳血管疾患が、40年以上も前から一方的に下降し続け、逆に、やや遅れて肺炎が一方的に上昇し続け、2011年時点で遂に両者が交叉、順位が入れ替わったのである。 新3大死因は、いずれも上昇カーブを描いており、当分は上位独占し続けることであろう。 肺炎の台頭は、専ら高齢社会を背景とした「誤嚥性肺炎」の急増にある。90代男性の死因に限れば、肺炎は第1位である。 オスラー博士は、肺炎を友人といって容認しているが、100年前のことでもあり、まあ致し方ないとしよう。だが、近代医学の進歩した今となっては、無為無策は許されない。 幸い、最近、高齢者の肺炎対策として有力な手段が見つかった。肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種すると、肺炎の発症率が大幅に減り、死亡を有意に抑制できることをつきとめたのだ。 更に、誤嚥性肺炎の発症抑制効果を高める手段として、高齢者の口腔衛生状態を改善し、歯周病対策を同時実施すればよい結果につながる研究成果も得た。 ポックリ病としての友人も確かに魅力的な存在に違いないが、まだまだ人生を楽しめる権利が十分あるうちは、できればそっと遠くから静かに見守っていてくれる賢明な友人でいて欲しいものである。
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