メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
抗うつ薬、初対面のとまどい
 
   幼児が主役のTV人気番組に「はじめてのおつかい」というのがある。きのうまでお母さんとおててつないで行っていたお店に、今日は人生初の一人旅。
 「行ける!」と豪語したものの、いざとなると・・・。
 一方、おとなでも、初めてとなると躊躇することは当然。体調不良で受診したところ、処方されたのが、人生初の抗うつ薬。
 「へんな副作用が出はしないか」「本当に効いてくれるのか」
 多種多様ある薬剤の中で、特に抗精神薬の場合は、一般に抵抗感が強く、「ハイ、そうですか」と素直に応じる患者は少ない。
 内科外来を訪れる患者の大半は、胃部不快感や食欲不振等の身体症状を訴え、諸検査を受けることになるが、格別な異変がみつからず、抗うつ薬をすすめられることがよくある。
 だが、あくまでも身体症状に強くこだわる患者は、精神疾患であるという自覚に乏しく、或いは、全くそれを受け入れようとしないケースが多々ある。
 こうなると、まず患者・医師間のコミュニケーションがなによりも大切。なぜ抗うつ薬の服用を嫌うのか、患者心理の懊悩を解きほぐすことから始めなくては治療は前へ進まない。
 患者の辛さを心から受け止め、決して心理的な原因を強く追求してはいけない。十分話を聞いて、自分の処方薬服用で「必ず良くなる」と力強く保証してやり、医療者側のペースに引きこむが大切とベテランは言う。
 更に、服薬を成功させるキーポイントとして、服薬継続中の時間的経過を細かく説明理解させることが、極めて大切だという。
 というのも、抗うつ薬の一般的作用パターンが極めて特徴的で、服薬初期に必ずといってよいほど副作用の発現期があり、ほとんどの人がこれで服薬を断念してしまうからである。
 実際は、この初期1~2週間が過ぎ去ると必ずバラ色の症状改善期がやってくる。「良くなれば抗うつ薬は飲む必要はなくなる」と明言してやり、指示通り服薬遵守させることができるかどうかが勝負どころとなる。
 苦労して治療に成功した医師の報告に「思わずバンザイ!」と叫んだというのがある。
 親身になって治療してくれるそんな医師に会うことは幸せである。
 初めてのお使いに成功した我が子には「よくやった」としっかり抱きしめてやればよい。

(2012年9月21日掲載)
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