メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
ま夜中、無意識のツマミ食い
 
   ま夜中にベッドからこっそり抜け出し、目ざすは冷蔵庫、目をつけていたスウィーツをペロリ。食いしん坊がよくやるツマミ食いの風景だが、これを無意識のうちにやってしまうとなると、これはもう立派な病気である。
 「睡眠関連摂食障害」といい、通常夢遊病と称する「睡眠時遊行症」の一種とみられている。
 摂食対象は、炭水化物や脂肪を多く含む高カロリー食品がその主体であるが、冷凍したままのピザなど未調理品や、ペットフードなど人間さまの食用ではないもの、或いは洗剤等毒性のあるものまで、口に入れてしまうところがレッキとした病態である証拠。
 時には、本人が覚醒時はアレルギーを起こすとして絶対避けていたものまでスルスルと手が伸び、口に運んでしまうから危険極まりない。
 こうした患者のいる家庭は、厳重な管理が必要である。
 昼寝のような短時間睡眠時には見られないが、夜間入眠後3時間以内に行動を起こすことが多い。1晩に1回だけのことが普通だが、重症例では複数回繰り返すことも知られている。中には、無意識ながら調理行動を伴うこともあり、ケガやヤケドを負うケースも散見される。
 患者の多くは、病態の持続期間が11~15年程度と慢性の経過をたどる。そのため、患者の心理的苦痛はかなり強く、重症例では過度の体重増加から高血圧や糖尿病等の身体疾患のリスクがぐんと高まる。
 この疾患はしばしば薬剤により誘発されることもあり、代表例として超短時間型睡眠薬が誘因となった症例が報告されている。
 この異常行動が個人レベルで済むうちは特に問題はないが、救急病院で当直医が睡眠薬をのんで熟睡している時に、突然急患で起こされた場合、救急処置が全く無意識下で行われるケースが知られている。翌朝、夜間に実施した自分の医療行為を、時にはメスをふるう症例であっても、全く覚えていないというのだから始末が悪い。
 大変恐ろしいケースだが、幸い処置そのものは正常で、問題化したことがないというのが実に奇妙である。
 本疾患の有病率については、アメリカの一般大学生217人を対象とした調査があり、4・6%と報告されているが、およそ20人に1人というのは若年者では決して稀な疾患ではないと考えられる。
 患者性差は、3人に2人が女性で、摂食障害も同様に女性に多いことを考慮すると、女性特有の何らかの心理・脳生理学的基盤が発症に大きく関与していると思われる。

(2013年10月25日掲載)
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(2013年11月8日掲載)
◆ま夜中、無意識のツマミ食い
(2013年10月25日掲載)
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(2013年10月18日掲載)