メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
汚染牛肉とポテトチップス
 
   “汚染牛肉”という言葉は、それを食すると直ちにがんになりやすくなってしまうとか、場合によっては、食中毒的な症状を起こすかも、といった、極めてダーティなイメージを与え過ぎている。
 病院外来等でも「汚染牛肉を食べてしまったが大丈夫だろうか」といった類の質問が多く寄せられているという。
 だが、実際は科学的データを基に事実を知れば知るほど、それによって受ける健康被害は、極めて小さなものであり、口に入る食品に対して与えられた“汚染”という言葉が、庶民にとって如何に安全・安心を脅かす大きな意味合いをもつものであるか、あらためて強く思い知らされる。
 問題のセシウム牛肉は、たとえ1キロ食べたところで、その被爆量は、渡米飛行中に浴びる放射線量を下回るものであり、しかもセシウムは、水に溶けやすく尿から数か月でほとんど体外排泄されてしまうから、通常の食事では、実質的な健康被害は極めて少ない。
 それまでに判明した最高レベルの汚染牛肉を、年間10キロ食したとしても、放射線量は0・5ミリシーベルト(mSv)にとどまり、日本で生活していて自然界から受ける量1・5mSvの3分の1にすぎない。
 地球上ではイラン人が年間10mSvと最高レベルの自然環境で生活しているが、特にがん死亡リスク上昇などの健康影響は確認されておらず、日本での安全度ははるかに高い状況にある。
 牛肉に限らず、水や野菜、果物なども汚染食品として高い関心を呼んでいるが、喫煙や大量飲酒といった悪い生活習慣とも比較してみると、そのリスクは1000分の1程度にすぎず、汚染食品の健康被害は少々騒がれ過ぎといってよいだろう。
 更に、生活習慣と関連の強い肥満も、発がんリスクを高めるファクターの1つとして知られているが、これは約400mSvの放射線を一気に浴びたほどの害があるという。
 最近、アメリカで体重増加と食品・飲料との関連を検討した超大規模調査が実施された。
 それによると、体重増加への影響が最も大きかったのは、食品ではポテトチップス、飲料では加糖飲料であった。これらは別に汚染食品ではないが、それによって肥満、発癌性につながるとしたら、まさにメタボチップスの汚名が付けられてしまってもおかしくない。
 汚染食品でビクビクするよりも、悪い生活習慣があったら、それをわずかでも修正する方がはるかにリスク低減に実効性があることを正しく認識するべきであろう。

(2011年10月14日掲載)
前後の医言放大
難病リウマチの終焉
(2011年10月28日掲載)
◆汚染牛肉とポテトチップス
(2011年10月14日掲載)
ベテラン医師は最善たりえず
(2011年9月16日掲載)