メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
無痛分娩の良し悪し
 
   無痛分娩は、諸外国ではかなり一般化している。例えば、アメリカ、フランスでは、経膣分娩の80%以上が無痛分娩である。
 一方、食生活をはじめ何かと欧米化傾向の強い日本ではあるが、こと無痛分娩についてはあまり普及が進んでいない。あくまでも男の側から見た表面的感想では、あの激烈な痛みが回避できるのだから、どんどん取り入れられて然るべきだろう、と思いきや、日本女性の我慢強さには敬服してしまう。
 無痛分娩を取り扱う施設環境が十分整っている外国に比べ、とにかく日本では無痛分娩施設を見つけにくい状況があるのは確かだ。
 無痛分娩を担当する麻酔科医が少ないという物理的理由が根本的にあるが、併せて、産科医及び市民の間にも、根強い無痛拒否の姿勢、偏見があるとされている。
 無痛分娩が、医学的見知からいって、あまり勧められない選択であるとするならば、敢えて口出しすることはないのだが、昨今、高齢出産が増え、しかも初産ともなれば、体力温存のため無痛分娩が選択されて然るべき一面もあるはずである。
 無痛分娩により分娩時間が延長するとの懸念はあるが、産婦がリラックスできていて、しかも胎児の状態に支障なければ、時間の多少の延長は決して悪いことではない。
 無痛分娩があまりよろしくないとされる最大要因として、硬膜穿刺後頭痛があげられるが、その発生率はわずか1%以下にすぎない。たとえ出現したとしても、自己血パッチなどの治療で根治が可能である。
 このように無痛分娩のデメリットにはさほど大きな要素はなく、なんといっても痛くないこと、体力消耗が少ないこと、そして重篤な産褥出血の割合が少なくなったことなどのメリット要素の方がはるかに大きい。
 以前は吸入麻酔薬や静脈麻酔薬を用いた無痛分娩では、薬が胎児に移行して鎮静され生まれてくることもあったが、局所麻酔下では直接的影響がほとんど認められなくなった。
 更に、事実無根の偏見として、例えば無痛分娩により自閉症の児が増加するとか、授乳の成功率が低下するなどの誤った意見がある。まず、こうした偏見を払拭することが、無痛分娩普及拡大の大きな第一歩となろう。
 無痛分娩のメリットをさらにあげるならば、硬膜外カテーテルが留置されていると、胎児機能不全で緊急に帝王切開が必要となった場合でも、硬膜外麻酔による手術を直ちに開始できる。万が一のトラブル対策としても万全の態勢である。

(2013年6月14日掲載)
前後の医言放大
潜在患者掘り起こし広告
(2013年7月12日掲載)
◆無痛分娩の良し悪し
(2013年6月14日掲載)
うつ病を受け入れる勇気
(2013年6月7日掲載)