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つい一昔前まで、がんは、その告知を受けることは、即、死を宣告されるに等しかった。なす術がなく、ただ徒らに日を重ねるだけの「不治の病」であった。 それが、昨今は目をみはる治療技術の向上により、そうやすやすと死ぬ病気ではなくなった。標的薬の登場や、ピンポイントでがん組織のみをアタックできる放射線療法等の進化により、“治癒”と言い切れるほど顕著な有効例が次々とみられるようになった。 悶々と、ただあの世からのお迎えを待つだけだった苦難の時代から、治癒を目ざして敢然とチャレンジできる「共存の時代」に移行したのである。 がん治療中の生存者は急増しており、2003年には298万人であったが、来たる2015年には533万人に達すると予測されるほどである。 がんに対するチャレンジは、ただがむしゃらに治療を続けるだけではなく、その過程で必ずともいえる副作用発現に十分配慮する必要がある。 有効性とQOL両面で万全の治療態勢を組む一方で、500万人を超える大量の患者をスムーズにリードしていくには、医療者側に相当な覚悟が要求される。 そこで公然と囁かれているのが「2015年問題」。多くの「がん難民」を如何に巧妙にさばくことができるか、医療界は、そして社会的にも大変大きな難題を抱えたのである。 がんの治療を長く続ける共存状態は、その闘病過程で、ほぼ必然的にさまざまな機能障害が生ずる。認知、嚥下、発声等にかかわる各種障害をはじめ、運動マヒ、筋力低下等の骨格系障害についても、ありとあらゆる個所の働きが劣化を余儀なくされる。 日常生活動作の不具合をなんとか最小限にくい止めるためのリハビリの機会は、共存時代の到来により爆発的に増加する。 欧米では既にがんのリハビリは普通に行われている。日本ではがんのリハビリ科設置はゼロに等しく、がんセンターに於いてさえ新設の機運がなく対応が大幅に遅れている。 幸い、2010年度からは「がん患者リハビリテーション科」の診療報酬算定が可能となり、内容的にも治療後を見込んで、障害発生前からリハビリ介入ができる点で画期的。今後、一気進展が期待できる。
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