メディカル・エッセイスト 岸本 由次郎   
 
医言放大
 
赤ちゃんがオジンになる前に
 
   高齢出産が難産になりやすいということは誰しも承知していることだが、問題の本質は、むしろ「ダウン症児」出産の危険性が高まることにある。
 ダウン症の子どもが生まれる確率は、母親が35才だと約350人に1人の割合で、40才ともなると約100人に1人と高くなる。
 このように、出産に関わる年令上のトラブルについては、専ら女性側に片寄って語られることが多かったが、最近になって実は「男性側についても、高齢になればなるほど子どもに悪影響が現われやすくなる」ということが明らかにされた。
 時に、芸能界でモテモテのベテラン歌舞伎俳優等が、若くきれいな女性のハートを射止めて華やかに挙式、なんてニュースが報じられたりするが、いざ子作りということについてはよくよくお考えになられた方がよい。もちろん経済的には何の心配もいらないだろうが、子ども自身の健康問題に一抹の不安が生じてしまうからである。
 研究報告の詳しい内容はこうだ。
 精子DNAは、加齢と共に損傷を受けやすくなり、突然変異の数も増加する。その結果、高齢の父親から先天性の疾患をもつ子どもが生まれやすくなる、というのである。
 現在、約20種の疾患が明らかにされており、例えば、頭、顔面、手足が異常形となるアペール症候群といわれるものとか、軟骨形成不全による小人症等が知られている。さらに、父親が50才以上の子どもの場合、約2%が将来、統合失調症を発症する危険性を有しており、それは父親が20才前半の場合と比べ、リスクが3倍も高いということである。
 こうした問題が明らかとなって、人工授精が産業化している諸外国では、精子提供者の年令に上限を定める国が現われてきた。その一つとして、イギリスのある組織では、当初上限としていた50才を45才に引き下げた。
 さらに厳しい目でみれば、ワシントン大の研究発表だが、「精子損傷の変化が最も顕著に現われだすのは35才からだ」というのがある。父親として最も心配のない理想的確率を求めるなら、34才までに我が子を生み終えるよう人生設計すべき、ということになる。
 統合失調症を発症する子どもが生まれるリスクは、父親が40才だと約110人に1人とされ、母親が40才の時のダウン症児発現リスクと同率である。
 最近は出産年令が徐々に高まりつつある。子どもの健康問題が社会的レベルにまで増長するとなるとコトである。ますます少子化の進む社会にあって、貴重な子どもの一人一人の健康は大切に監視しなければならない。もし不健康児が増加するようなことがあれば、その成因を正しく分析し実効ある対応が求められる。


(2005年1月28日掲載)
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