メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
「総合医」という「専門医」の育成
 
   医学界に身を投じた際、一般的に優秀とされる道しるべは、特定専門分野で極力世界的レベルで最先端の研究に取り組み、その成果を論文化することである。
 今や、世の中は専門家崇拝の時代であり、医学生や研修医は、こぞってまずは臨床専門医になることを目ざす。
 テレビなどメディアでも、そうした専門医志向が強くアピールされ、国民もそれこそが最高の医療の姿だとストレートに引きずられぎみである。
 だが、専門は専門で確かに必要不可欠な分野に違いないが、あまりにも一方的な方向性には、かねてより疑問の声のあることも確かである。
 つまり、「臓器を診て病人を診ない」、いわゆる「専門バカ」と称される批判である。実際、全疾患の9割以上はプライマリ・ケア領域で扱われるべきとの研究発表もあるくらいである。そうであるならば、全人的医療にもっともっと力を入れて取り組むべきではないかというわけである。
 こうした背景もあってか、最近市中では、総合内科をアピールする診療所が目立ってきた。現行医療法上では、標榜科目としてうたうことは認められていないので、診療所名に直接「総合」という字を組みこむなど苦心して市民にアピールしている。
 「プライマリケアクリニック」或いは「ファミリークリニック」なども同種類のものであり、急増する高齢者の幅広い疾患の需要にタイミングよく対応しようとしている。
 患者側の立場としては、高齢者(65才以上)の域に突入すると、何かしら病気を抱えることになり、後期高齢者(75才以上)ともなると、もはや病気のデパート状態。処方薬を大きな袋一杯に詰めこみ、毎食後には色トリドリの薬を何粒も口に放りこむ。
 こうした現実的な背景もあり、厚労省は、かねてから検討を重ねてきた「専門医のあり方に関する検討会」で「総合(診療)医」を19番目の専門医として認める中間まとめ案をとうとう形にすることにたどりついた。
 総合医の論議は、1985年からかれこれ四半世紀にも。制度としてようやく陽の目を迎えられそうである。
わざわざ遠くの大病院に出向いて初診料の上乗せ料金を払うよりは、近くの立派に認められた「総合医」に効率よく診てもらえる方が、患者にとっては大変ありがたいことである。

(2013年1月11日掲載)
前後の医言放大
医師・看護師自らの患者体験
(2013年1月18日掲載)
◆「総合医」という「専門医」の育成
(2013年1月11日掲載)
便秘こぼれ話
(2012年12月28日掲載)