メディカル・エッセイスト 岸本 由次郎  
 
医言放大(10月号)
 
赤ちゃんが欲しい・不妊治療
 
   結婚をして子どもができる。至極当然の成り行きのように思えるが、中には頑張ってもがんばっても赤ちゃんが授からない、いわゆる不妊症のカップルがどうしても発生する。
 どうしても男の子でなくては、なんてどこぞの国で問題になっているようなぜいたくは云わない。そんな母性愛に満ち溢れた愛児熱望夫婦の方々は、最近やたらと頻発する児童虐待の報道等を、どのような思いで聞いているであろうか。
 さて、子が授からぬことを、「コウノトリのご機嫌を損ねた」として天命と諦め、潔く子のいない現実に幸せを求めようとする、これがほとんどの不妊夫婦の落ち着く姿だ。だが、中にはどうしても諦めきれず、不妊治療という医学的な可能性を徹底的に追求するカップルも少なからず現れる。
 最近大々的に報道された高田・向井夫婦の不屈のチャレンジ精神による大成功を目の当たりにすると、なんとか私たちもと、積極的にトライする。確かに医学の急速な進歩の中にあっては、不妊治療もまた長足の進展をみせている。その技術に希望を託すカップルが、インターネットにアクセスするなどして増加しているのもまた当然の成り行きというものであろう。
 日本では、結婚後妊娠を希望して、もし2年以上妊娠不成立の場合「不妊症」と診断される。しかし最近は、アメリカ並に期間を1年以上と短縮する動きがでてきた。結婚年齢・出産年齢が高くなり、一年一年が非常に貴重になっているということもあるし、一年以内に約9割が妊娠しているというデータもあるからである。ちなみに、一般的には3ヵ月以内に5割、6ヶ月以内に7割が妊娠成立をみている。
 体外受精技術による不妊治療は、非常に高価であるが、現状ではトライする9割方は残念ながら出産までこぎつけることができない。妊娠率は39才以下で19%、40才以上で8%のデータがあるが、その約半数は流産の悲劇にみまわれている。
 子の授かることをひたすら願い続けてきたカップルが、ある日を境に急に諦めの踏ん切りをつけることはそうたやすいことではない。10年間努力を続け、気が付けば45才になっていたという人のつらい告白がある。「振り返れば、私たち夫婦には桜の花が美しいと感じる心の余裕もありませんでした」。一心不乱な気持が痛いほど伝わってくる。
 専門家は云う。「40才を超えた女性では不妊治療を行うべきではない」と。
 不妊治療を行う医療機関が、いま増加の一途を辿っているという。商業主義を一切排除した正しい助言が厳しく実行されるよう祈りたい。


(2004年10月8日掲載)
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薬事ニュースホームページ開設
(2004年10月12日掲載)
◆赤ちゃんが欲しい・不妊治療
(2004年10月8日掲載)