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“精神が分裂する病気”なんていう表現はあまりにも破滅的であり、人格否定もはなはだしいということで、「統合失調症」と呼称変更されたが、穏当な落しどころとして大変感心した。 併せて、遅ればせながら、とかく諸外国から非難され続けていた患者の脱施設化・早期社会復帰問題に向けて、改善の動きが活発化したことは大変好ましい傾向である。 我が国の抗精神病薬の処方方針としては、複数投薬、つまり3~5剤の多剤投薬が基本にあり、これまでは症状悪化を恐れて減薬に踏み切ることがなかなかできなかった。また、多剤服用の悪弊が副作用として眠気や振戦、流涎といった、表面上ダラシナイ姿を見せつけることともつながり、結果、社会復帰を大きく遅らせる障害につながっていた。 対して、欧米の処方方針は、単剤、或いはせいぜい2剤投与が主流で、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどでは、単剤投与が約8割を占めているし、フランスでも過半数が単剤という。 とはいえ、多剤投与は我が国だけの問題ではなく、香港、スペインなどでもみられる。ただ、日本は特別その傾向が強すぎ、世界的に格別目立つ存在となっているのが困りものなのである。 結果、パーキンソン症候群や便秘、口渇等つまらぬ副作用リスクを増大させることとなり、その上それを抑えるために他の薬剤を与えるという屋上屋の悪循環を生むこととなっている。クスリだけで満腹、なんていう患者の訴えもあるほどで、外国の識者からみたらあきれて物もいえない、てな感じ。 欧米の単剤投与中心の治療システムが副作用発現を少なくし、入院期間も比較的短く済ませるという好結果につながっている。だが、その背景には医療費問題を味方につけ、結果オーライ的な一面もなくはない。 つまり、医療経済の逼迫が、苦しまぎれに多剤投与をやめさせ、なんとそれがうまいことに単剤投与で同等以上の臨床成績を得るというラッキーチャンスに恵まれたのである。多剤投与一掃の動きが加速したのは当然の成り行きである。 こうした諸外国の単剤投与成功の背景、更には、その後の優秀な抗精神薬の登場を踏まえて、我が国の研究者もさまざまに検討を加えた結果、入院患者の5分の4、ないしは3分の2が社会復帰の可能性のあることを見いだしている。 社会復帰をすんなり実施できるほどの欧米並みの環境にはないが、呼称変更の主旨である人格尊重を適格に生かすためにも、一人でも多くの患者がしっかり自立していって欲しいものである。
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