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待望の赤ちゃんがお腹に宿った。日に日に成長する胎児の様子は超音波診断器で確認することができる。医師は、その超音波スキャンによる胎児の写真を妊婦に渡すのが慣例となった。 その平面画像(2D)は、素人が見る限り単に漠然とした灰色の輪郭にすぎず、今はやりの五百万画素デジタルなどとは比ぶべくもないが、それでも妊婦には大変な感動をもたらす。 それが今、さらに開発が進んで3Dの立体画像の撮影が可能となり、胎児の表情や指、つま先まで鮮明に捕らえられるようになった。我が子の表情に初めて触れた夫婦は、平面写真の時の感動を超越して一種独特の畏敬の念に打たれるという。 これほどの画期的開発の成果を見せつけた超音波装置をアメリカの商売人は放ってはおかない。なんとこれをショッピングセンターという非医学的環境に持ちこんだ。診断のためではなく、胎児の記念(記念にルビ点)写真を撮る商業行為に転用することを考えたのである。まさに今はやりのプリクラ的活用である。 日本ではプリクラは百円ショップの一隅に据えられピチピチギャルがキャーキャー云って楽しんでいる。各種ラクガキが可能で、誕生日やら記念日やら何でもかんでも書き込みOK、簡単にお好みのシールが作れる。 そんなギャルの延長線で、年若い妊産婦にこの新企画が受けないわけはなかった。愛する我が子の妊娠記念・胎児撮影のためには少々出費はいとわない。胎児の性別を探るための撮影費約八千円も、さらには、CD、DVD、ビデオテープ一式費用の約三万円也も何のそのである。 商業用に転用した超音波新装置は、プリクラよろしく花柄等をデザインしたスクラップページを選んだり、ビデオテープとDVDには音楽をつけることも可能となっている。 明るく乗り易い国民性を受けて、ある業者は既に20以上の州に支店を出し、人気店では1か月に100以上も注文に応じているという盛況ぶりである。 ここまで派手に商売が拡大してくるとなると、この超音波、元々は医療用機器。胎児の奇形を見つけるなど診断上の検査装置として、本来は医療従事者の監視下におかれていなければならないもの。 産科婦人科学会やFDAなどはこれをにがにがしく見守っている。興味本位で展開される商業行為の人気化にイラツイテいる。只今のところ特に問題は起きていないが、何かトラブルの一つでも発生すれば、即座に何らかの規制がかる雰囲気は十分漂わせている。
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