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医学分野における科学的解明は進みに進み、ついに、ゲノムという超ミクロの世界を覗き見る段階にまで到達した。これまで不明とされてきたことが、全て白日のもとに曝されると、一面恐れつつも大いに期待もした。だが世の中そんなに単純ではなかった。 数多く指定されている難病のほとんどは、相も変らずその解明に四苦八苦しているし、どうして?と首をかしげるようなことが、まだまだうじゃうじゃと存在する。 現代を代表するアルツハイマー病にしてもまさにその一つ、超厄介物として立ちはだかる。アルツハイマー病発症によって展開される光景は実に悲惨だ。これまでどれほど立派に人生を積み上げてきた人でも、ある日を境にいきなり奈落の底に突き落とすようなことを平気でする。そこには尊厳の一片も存在しない。否応なく知性の一かけらも感じない動物の世界に引きずり込んでしまうのだ。 それでも、どんな場合でも例外というものはあるもの。時に、科学を超越した神秘的な現象に出会うことがある。 CT画像等で明らかにアルツハイマー病と診断され、当然、痴呆の特有症状が現われてもやむを得ないはずなのに、その素振りを全く示さないケースがある。それが、決して少なくないというから少なからず興味をそそられる。 それらの人たちに共通して云えることは、極めて強い“積極性”がみられることだという。“ポジティブ思考”と“不屈の精神力”が、病気を得ても病気として現わさない力強い生き方がひしひしと伝わる。 101才で亡くなったある修道女は、終生頭脳明晰を誇り、創造的な仕事を立派に果した。死後、病理組織像をみて誰もが驚いた。まぎれもなくアルツハイマー病の姿を示していたからである。 中高年と加齢していくと徐々に物忘れは進む。もともと1,000億個あった脳細胞も、毎日10万20万と減少していき、還暦の頃には約半数になってしまう。従って、物忘れ等の老化現象はどのようにあがいてみても避けることのできない宿命なのである。 しかし、最近の研究で、脳の可塑性が十分あり得るとの考え方が、俄然注目されるようになってきた。 例えば、多機能の神経幹細胞の増殖が起きているとか、脳内神経線維の再生・連絡により、これまで使わないでいた反対側の多くの脳細胞が活性化、脳のリフレッシュが可能となる、などの研究が進んできているのである。 ただし、そうなるための源は、あくまでも個々人の前向きな積極性にあることを忘れてはなるまい。
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