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日本が世界一の長寿国家になったことは、大変喜ばしいことに違いないが、問題はご臨終前の数年間がどういう状態であったかということ。寝たきり状態やら老人虐待やらの暗部が、心身両面に亘って観察した時に浮きぼりにされるようでは、決して歓迎すべき老後とはいえない。特に痴呆(認知症)に対する恐怖は、これから老齢期へのカウントダウンに入った人にとっては、なんとも例えようがない心配事となる。 「あれー何の話をしていたんだっけ」 誰かと会話中に、突然他人から横やりが入った時、すんなりまた元の話に戻れず、しばし立ち往生することがでてくる。心当たりのある人は、ことによると「認知症の初期」に突入しているかもしれない。 しかしありがたいことに、この長いこと不治の病として恐れられてきた痴呆でも、まったくの初期であればなんとか阻止できる治療法が確立できたようである。長らく諦めの境地に立たされていた恐怖疾患であるが、ワクチン療法や有望な治療薬の登場で、完全治癒も夢ではない治療法が具体化しつつあることは実に歓迎すべきことである。 今のところ治療可能といえるのは、はっきりいって超早期の段階のものに限られている。徴候らしき事態が発生したら、直ちに専門医を訪ね、まずは正確な早期診断を仰ぐことである。 診断法で特に有効なのは「改訂長谷川式簡易知能評価」といわれるものである。まず、「桜、猫、電車」の3単語を復唱したあと、全く異質の別問題に2つトライし、先の3単語を思いだせるかどうかのテストである。認知症の極く初期では、こんな簡単なことでもスムーズに処理できなくなる。この段階、前駆期として直ちに治療態勢に入れば、認知症本格化への移行は防止できるという。 年をとれば軽度の認知障害が現われて当然だが、それが単なる生理的老化「良性健忘」なら普通にすまされる。だが、認知症初期の「悪性健忘」となれば放置はできない。従って高齢期に入ってのボケ症状が良性か悪性かの鑑別は、治療の必要性を巡って極めて大切な位置付けとなってくる。 疫学調査では、65歳以上の一般高齢者の4人に1人、痴呆の極く初期の症状がみられるという。恐ろしいことに放置しておくと、その3割が3年以内に本格的な認知症に進行してしまう現実が確認されている。 今、我が国には150万人もの認知症患者が存在するとされているが、その因ってきたる一番の問題は食生活。量が少ないとか偏食が脳を作る栄養素の不足につながるという。年寄りだから粗食がよいなどと遠慮せず、何でもバリバリおいしく召し上がることが大切である。
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