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本年5月、アメリカ泌尿器科学会で、前立腺がん患者かどうかを、尿検体で嗅ぎ分ける優秀な探知犬についての報告があった。 イタリアH・R病院の研究陣が、元々は軍で爆発物探知作業に従事していたジャーマンシェパード2匹を特殊訓練したもので、前立腺がんの患者群362名分と対象群540名分の尿検体を嗅ぎ分けさせたところ、うち一匹が精度100%の完璧な成功率を示したというものである。なお、他の一匹の精度は98.6%であった。 対象群の中には、乳がんなど前立腺がん以外の担がん患者や前立腺肥大症患者なども含まれ紛らわしい検体もあったが、それらに惑わされない嗅覚のすばらしさには驚嘆させられる。人間の数万倍の鋭い嗅覚を持つと云われる犬ならではの特異性のなせるわざということだ。 前立腺がんのスクリーニングには、特異抗原PSA値を定期的にチェックするシステムが一般的に行われているが、決して満足する状況にあるとは云えない。 今回報告された犬の嗅診力の凄さを見せつけられると、この能力を利用することで、不要な生検も減らし、高リスク患者を絞り込む可能性が十分考えられる。
実は日本でも犬の嗅診によるがん種一般の早期診断の研究に、早くから取り組んでいる施設がある。 千葉県・南房総市がん探知犬育成センターでは、かれこれ8年前より研究を始め、3年前には大腸がん患者の呼気を嗅ぎ分けさせる実験成果を、イギリスの医学誌に発表しているほどである。 成績は、36回中33回の正解(91%)で多少不満はあるものの、世界中の研究者からは多大な注目を浴びた。 さらには、婦人科系がん患者の尿を用いた実験では、大腸がん以上の成功率をおさめ、日本癌学会ほかに次々発表している。
盲導犬や聴導犬、さらには介護犬や癒し犬などなど、障害者を助ける各種補助犬の活用度が、いまますます高まっている。 この際、探査犬の能力を一層引きだして各種疾患の嗅診の実用に向け、本格的訓練を強化、推進できないものか。
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