メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
重症奇形続く国際オンチ
 
   一昨年は風疹が大流行して、先天性風疹症の出生児が31名と、前回流行時2004年の3倍にもなった。
 20~40才代の男性を中心に流行が広がり、職場や家庭などで妊婦にも感染が拡大した。
 この世代の男性は定期接種の機会がなかったり、接種率が低かったりしたため、風疹に抵抗力のない人の割合が全体の16%と、10才代の倍以上となっていた。
 風疹患者数が1万4千名余に及び、2008年の統計開始以来最多となった。
 先天性風疹症は、ウイルス感染によって引き起こされるものだが、一方で原因が全く異なるものの、胎児への過大なリスク影響を与える点では、全く同類のケースとして、葉酸欠乏による胎児の二分脊椎症・無脳症発現トラブルがある。
 二分脊椎症とは、背骨の一部が開いて神経の束が露出、傷つくことで足が麻痺したり、尿意を感じなくなったりする障害である。
 葉酸はビタミンB群の1つで、体内では合成されないため食品から摂る必要がある。所要量は成人では1日約240μgで、妊娠を計画している女性では、1日に400μg以上の接種が推奨されている。
 鶏、牛、豚のレバーやホウレンソウを始め緑黄色野菜や果物などに多く含まれているが、調理、保存方法により酸化、破壊されるなどして欠乏につながるケースも多々ありうる。
 そこでアメリカを始め世界78か国の国々では、穀物食品類への葉酸添加が義務付けられるほど対策が徹底している。
 例えば、アメリカでは食パン1枚当たり40μgが添加されている。なお、葉酸は水溶性であり、過剰摂取分は体外へ簡単に排泄されるため危険はない。
 わが国では食品への添加義務付けはされておらず、年間約600名もの二分脊椎症出生の不幸が続いている。
 アメリカでは1992年に葉酸接種勧告をしたが、その不首尾を悟り、1996年には強制添加に踏み切った。一方、日本は、2000年に接種勧告をしたが、患児発生数は変わらず。にもかかわらず強制添加は未だに見送られている。
 費用対効果分析に於いても全く問題のない事案で、医療経済学的便益は約248億円と推計されているほどである。
 日本はワクチン行政では、ワクチンギャップと批判される後進国だし、葉酸政策でも国際オンチと見下されている。なんとも情けない限りだ。

(2015年11月20日掲載)
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◆重症奇形続く国際オンチ
(2015年11月20日掲載)
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