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「五体満足に生まれてくれたら」とひたすら神に祈る。だが、我が子の指は1本足りなかった。両親はヤリ場のない怒りに震える。 アメリカは途方もない膨大な規模の調査がこともなげに行われるお国柄だが、01年から02年にかけて出生した子ども全部の8割以上に当たる680万人以上の妊婦対象に、喫煙影響の調査が実施された。 導きだされたのが、妊娠中の喫煙行為が出生児の指の異常に密接に関係するというショッキングなデータであった。指に先天異常をもつ出生児5千人余の母親が調べられ、その約87%が喫煙者であったこと、その一方で、対照として選ばれた正常児の母親については、89%が非喫煙者であった。 両者の違いは明白であり、手指異常発生リスクは喫煙本数に比例して高まることもはっきりと確認された。つまり、1日10本の喫煙では非喫煙よりリスクが3割上昇し、20本以下で4割、そして21本以上では78%上昇することが明らかとなった。 こうなると、普段はプカプカと平然と喫いまくっている淑女でも、妊娠と解ったら直ちに禁煙態勢に入らねばなるまい。だが、問題はタイミングの遅れ。胎児の四肢の形成時期は妊娠1カ月目前後。ほとんどの女性は自らの妊娠に気付かず、あとの祭りとなることが多い。 こうしたことが現実に多く発生することを知る優秀な専門家、産婦人科医は違う。若い女性をみたら、「まず妊娠を疑え」を初診時の原則として構える。 さて、我が国の妊産婦は、ざっと10人に1人が通常は喫煙者。概念的には、喫煙が自分自身はもちろんのこと、胎児にもそれ相当の害作用の及ぶことは承知しているはず。それなのに、一部の妊婦はタバコから手を離そうとしない。「ナンデダロウ」で有名なあの漫才師ははたしてどう答えるだろう? ニコチンはとにかくタチが悪い。血管を収縮し血流を減少させて、酸素も栄養も供給低下させてしまう。一酸化炭素による酸素欠乏は言うまでもない。シアン化物の解毒のために有益なB12やアミノ酸が無駄に消費され、流産や早産の原因になったりする。たとえ出生できたとしても、通常より約200グラム程度軽い低体重児となってしまう。 いま話題の「睡眠時無呼吸症候群」や「突然死」を起こす頻度も大変高い。更には、子どもに暴力犯罪を起こさせる確率も高めるという。 幸い死産に至らずとも、10人に1人が反社会的人間に育ってしまうのは誠に恐ろしい。 妊婦自身がタバコを手離すことが絶対だが、その生活環境からなんとしてでも紫煙を排除しなければならない。それができなければ、子どもが作る正常な日本に明るい将来は見えてこない。
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