メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
遠近視力一挙回復手術
 
   初老期ともなると、視機能が衰えて近くを見るには老眼鏡を必要とするケースが増えてくる。
 だが、ゲーテ、アデナウワーといった有名人は、それぞれ82才或いは91才になっても、老眼鏡なしに読書ができたという。ドイツの眼科医の説明によると、これは遠くを視る時は遠視のきく方の眼を使い、読書については近視のきく方の眼で見る両眼の使い分けができたからだというから面白い。
 だれでもこんな高等な芸当ができるわけはなく、一般人が実際にこの能力を得るには、手術が必要。2種類のレーザーを用いて、それぞれの眼を片や遠視に、もう一方の眼を近視に調整する術式がドイツで行われており、最近、眼外科国際会議で報告された。
 日本でも同じ狙いをもつ手術が行われているが、ただ手段としてはレーザーによる角質スライス法ではなく、レンズ挿入方法がとられている。
 つまり、片眼には遠方用の、もう一方には近方用の単焦点眼内レンズがそれぞれ挿入されることにより遠近両方が見えるようになる。白内障の手術時はもちろんのこと、単なる老眼対策にも、この手術は応用可能で、老眼鏡を必要としなくなるメリットは大きく、日常生活上実に大きな価値を有する。
 白内障に対する標準的な手術方法は、単に濁った水晶体を除去して、遠方か近方のどちらかの単焦点レンズを挿入するものである。
 通常、遠方に焦点を合わせることが多く、当然、その場合は、新聞を読むためには老眼鏡を必要とする。これを次第に左右別機能のものにかえて手術する方向に切り替えてきつつあるが、当初は、近方については最大1mまでしか視力がきかないことが欠点とされた。
 そこで、1枚で両用の効果のある多焦点レンズが開発されることとなり、白内障手術の対応がますます進化していく。
 新型の多焦点レンズは、アクリル素材で軟らかく、折り曲げて挿入することができる。切開創は2mm程度で済み、縫合する必要がない。
 これにより近方の焦点が5mにまで広がったが、まだまだ中間部が見えにくい欠点はいなめない。だが、こうした不都合も近い将来みごとに解決、克服することは可能であろう。その予感が確信できるほど、近代眼科学の医工連携の技術力進化はすさまじい。

(2009年5月8日掲載)
前後の医言放大
うつ状態の医師
(2009年5月22日掲載)
◆遠近視力一挙回復手術
(2009年5月8日掲載)
眠れない子どもたち
(2009年4月17日掲載)