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医療界は、小児科、産婦人科、更には放射線科等を中心に、診療閉鎖が起きたりして混乱が続いている。だが、問題は、こと臨床部門だけにとどまっているわけではない。 実は、臨床力を支える基礎研究の分野でも今、大変憂慮すべき事態に陥っているのだ。 基礎医学に携わる研究者数が、約20年前を最大ピークに以降減少の一途を巡っている。生化学、或いは分子生物学を専攻している学生が、ピーク時の670人から現在201人と3分の1以下に激減しているのである。 現在の医学教育制度下では、基礎医学に対する軽視が明確にみてとれ、この分野の講義や実習時間は減少し、講座の縮小により、基礎医学研究は尻すぼみ状態を呈している。 現行の医学教育のプログラムは、明らかに臨床医養成を中心に組み立てられており、基礎研究者の将来は限りなくゼロに向ってまっしぐら、実に暗たんたる状況にある。 臨床はあくまでも基礎研究を基盤として成り立つものであり、その衰退は必然的に医学会全体の崩壊につながりかねない。 臨床そのものの世界でも、その発展を阻害する気になる現象が相次いで起きている。 副作用や合併症といった、いわばネガティブな部分に関連する論文発表が目に見えて減っているのである。 07年前半まで論文全体の約15%程度を占めていた合併症がらみの論文が、07年10月には2%に減少、同時に副作用がらみの論文にしても、約5%あったものが、やはり2%と減少している。 こうした傾向は、最近頻発する起訴問題が色濃く影響しているとみてよく、いわば典型的な医療萎縮といえよう。 積極的に研究発表するという関与が、場合によっては刑事訴訟の証拠になりかねない、と考えるリスク回避、保身があるとみられるが、現状では致し方がない。早いとこ医療裁判のあり方が大きく改善されなくては。 こうしたネガティブ問題から目をそらす現象は、いずれ医学の発展を阻害することが必定であり、更には、我々患者サイドへの不利益へと連鎖する。 基礎研究から離れ、真相究明から目をそらす医学・医療の流れが、ほんの一時の期間で済んでくれるのだろうか。問題が社会生活上に明らかに実感されるようになってからではちょっとやそっとではとても立ち直れるものではなくなる。
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