メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
発症3時間を4時間半まで延長
 
   ケニア人はなんと足の速い人種なのだろう。先のボストンマラソンでも1、2位がケニア選手。2時間2分台でゴールを駆け抜けた。
 2時間とは言わぬまでも「発症から3時間以内が勝負」とされるのが「脳梗塞」。発症時点をマラソンのスタートと例えるならば、2時間程度でゴール(搬送)できるのが理想的ではあるけれども。
 脳梗塞は脳の血管に血栓ができ、脳神経細胞に十分血流が届かなくなって、時には命まで奪いかねない。かっては適切な治療法がなく、たとえ命はくい止めても、後遺症が残りの生活に支障をきたすケースが多かった。
 だが、発症3時間以内に特効薬剤(t-PA)を使うと、血栓がうまく溶けてしまう「経静脈的血栓溶解療法」が登場し大変革をもたらした。
 この療法は、6年前保険診療承認となり、脳梗塞の超急性期については、これまでの「治せない時代」から「治せる時代」に大きく変貌させたのである。
 だが、この折角の画期的治療法ではあるが、十分生かしきれておらず、脳梗塞患者全体のわずか2%程度の利用に留まっている。
 とにかく3時間以内が勝負の分かれ目、脳梗塞の前触れを如何に早く察知するかにかかっている。幸い、横浜市立脳血管医療センター長(山本氏)が「FAST」なるフレーズで適切対処を啓蒙している。
 まず、FはFace(顔)のこと、しびれたりたれたりしたら要注意。次にAはArm(腕)、力が入らなくなったり、S:Speech(発語)関連で、シャベりずらくなったら即、脳梗塞を疑い、T:Time(時間)をおかず救急車を呼ぶこと、と教えている。
 最近、朗報として、適正治療指針で規定されている「3時間以内」が、近々「4時間半」に改定される見込みが発表された。
 今後、4時間半が更に延長されて、東京マラソンの制限時間ぐらいまでたっぷり余裕をもって治療してもらえるようになれば大変ありがたい。
 搬送時間が長くかかる地域や、夜間就寝中に発症したケースなどでも救命できるチャンスが拡大するわけで、発症後の治療開始制限時間の延長は大歓迎である。

(2011年7月22日掲載)
前後の医言放大
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(2011年8月5日掲載)
◆発症3時間を4時間半まで延長
(2011年7月22日掲載)
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(2011年7月15日掲載)