メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
二足歩行は神の恵み
 
   ガソリンをはじめ諸物価の値上がりは、まことに頭の痛い問題だが、からだ自身についても、我々は常に多かれ少なかれ悩みを抱えている。
 からだを巡る各種トラブルの中で、国民がイの一番にあげているのは“腰痛”である。
 この腰痛、実は人間の祖先が四足歩行から直立二足歩行をするようになって得てしまった、いわば人類の宿命的疾患である。
 とにかく、犬や猫では、どれほど走り廻っても腰にきた、痛いなんて話はきかない-話せない相手をそう決めつけるのもなんだが-ヒトが直立二足歩行になって、脊椎支持機能にドカンと大きな負担がのしかかったことにはまちがいない。
 結果、ヒトはその8割方が、一生のうち一度は腰痛を体験する宿命を帯びたことになる。
 二足歩行により自由自在に使えるようになった手ではあるが、思わず重い物を持ち上げた途端、ギックリ腰になることもあり、二足歩行によるオマケの産物には気を付けなくてはいけない。
 とはいえ、ヒトの手の利便性は例えようのないほど偉大、神より与えられし最高の産物
ではなかろうか。世界の至る所で輝く超々芸術品の数々に接する時、感謝の思いは頂点に達する。
 精緻な技能を発揮する手と共に、二足歩行となったヒトが、万物の霊長類として君臨できる証として特筆できるのは“シャベレル”能力を持ったこと。人間は600万年前に言葉を習得し、喉に会話する構造進化を獲得した。つまり、シャベルために口でも呼吸できる機能が拡大したのである。
 人間以外の動物では、口は食物を摂取するための器官であり、鼻は呼吸の専門器官である。
 「のどにもちを詰まらせて窒息死」毎年正月には決まって何人かのお年寄りが亡くなる。人の場合、気道と食堂の入口が近いからである。
 若いうちは、嚥下反射及び咳反射が強く働き誤嚥トラブルはまずない。加齢により筋肉や神経が衰えると、誤嚥がいとも簡単に成立してしまう。
 口腔内の雑菌を大量に含む唾液や食物の、気官への誤嚥により、いわゆる誤嚥性肺炎を繰り返し、高齢者の多くが亡くなる。
 誤嚥トラブルは、徹底した口腔ケアによる清浄化コントロールによりかなり予防できる。せっかく獲得した二足歩行の利点は、なんとしてでも最大限に教授したい。それが神の恵みに応える人間の義務である。

(2008年8月8日掲載)
前後の医言放大
基礎医学の軽視
(2008年8月22日掲載)
◆二足歩行は神の恵み
(2008年8月8日掲載)
ひたすら痛みに耐える女性
(2008年7月18日掲載)