メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
FBIも手こずる「エコ・テロ」
 
   小型高速船が調査捕鯨船に勝手にぶつかってきて大破、船長が強引に乗り込んできて、修理代1億円を要求するという珍事件が起きた。反捕鯨団体シー・シェパードからの組織的な指示の裏付けにより逮捕状が発行され、国際刑事機構を通じ国際手配する段階に進んでいる。
 今、世界は動物愛護、或いは環境保護を名目とした活動が過激化を高めている。
 アメリカ連邦捜査局・FBIは、その活動件数並びに被害額の多さを天下に公表しているが、その組織の複雑極まる多彩さにホトホト手を焼いている。
 首謀者はダニエル・アンドレアス・サンディエゴと言い、爆弾テロ容疑で指名手配されているが、FBIからは、あのオサマ・ビンラディンと同列の“モスト ウォンテッド テロリスト”に祭り上げられ、今や、このエコ(ロジィ)・テロ(リズム)は、最大級の厄介なにくたらしい存在とのし上っている。
 この問題は、そもそもは医学・薬学研究に必須な動物実験に端を発している。動物の扱い方が愛護団体からにらまれ、抗議活動として発展した。ヘキスト社の研究開発施設やオックスフォード大学の動物実験施設が次々と放火されたりしている。
 しかし当初は、動物実験による成果がめざましい科学技術の進展をもたらし、反対運動を完全に押さえこんでいた。だが、それも約四半世紀の期間に留まり、大小さまざまなアンチテーゼの組織が、アッという間に乱立してしまった。
 この活動の精神的基盤にはダーウィンの「種の起源」がかかわっている。活動家の言い分は「人間は生物の進化過程の一形態に過ぎず、他の動物に対し絶対的優位性はない」と独自の解釈をしている。
 スーパーモデルのナオミ・キャンベル、有名女優ブリジット・バルドー、更には元ビートルズのポール・マッカートニーなど多くの有力者が賛同しており、そこそこの資金力のあることも、FBIの捜査難航の原因となっている。
 捕鯨船とシー・シェパードとの攻防も、煮えきらないオーストラリア国家がからみ一挙に解決とはならない。FBIの苦渋を日本も長期味わうことになるだろう。

(2010年6月11日掲載)
前後の医言放大
TVの見過ぎに集中攻撃
(2010年6月25日掲載)
◆FBIも手こずる「エコ・テロ」
(2010年6月11日掲載)
術後感染を減らした糸
(2010年5月21日掲載)