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近年、医学の進歩は目を見張るものがあり、「もうだめだ、助からない」と、昔なら次々と亡くなっていた重症例でも、最新・高度の医療器具の開発も相俟って、何とか命をくい止めることが少なくない。 だが、問題はそこから。ギリギリのところで救命できたとしても、その後の生活が死人同然では生かされた価値が全くない。「そのまま死なせて欲しかった」なんて恨みごとを云われたのではどうしようもない。日常生活が不便で、人間として生きていく上で苦痛この上ないというんでは、尊厳もへったくれもないのである。 そこで、発病、発症前の健康な状態に極力戻してやる、いわゆるリハビリテーション医療の必要性、重要性が浮上する。真の治療とは、救命だけですますのではなく、社会生活への復帰まで面倒みてこそ成り立つのである。 こうした社会的要請を受けて、東京都リハビリテーション病院を代表として、小倉とか熊本とか日本各地にリハビリ専門病院が開設され、研究に実践に、真摯に活動しているのは大変結構なことである。ただ今のところ、国内のリハビリ専門医が千三百余名(‘07.3)ということで、あまりにも少なすぎるのが残念。 それでも、こうした背景があって、コント55号の坂上氏や、ミスタージャイアンツ・長嶋氏が、みごと我々ファンの前に元気な姿を見せてくれたのは大変勇気づけられた。しかも復帰まで極めて短期間で、昔よりはるかに短縮した現実にただただ驚くばかりである。 脳卒中を例にとると、発症からリハビリ専門へ転院するのに、以前は平均70日もかかっていた。だが、今や20日弱に短縮され、リハビリ自体の在院日数も、以前の平均150日から現在では80~90日へと縮小。つまり、発症して社会復帰まで以前の約7か月から3か月半へ半減、実に幻を見る思いがする。 死因第3位の脳卒中は、高齢者医療費中第1位を占め、なおかつ要介護原因でも第1位、福祉、医療経済に与える影響は極めて大きい。 脳卒中後の介護では、扱いをまちがえると拘縮や褥瘡、更には体力低下等が起き問題。過度の安静は心身に悪影響を及ぼし、さまざまな廃用症候群を生じかねない。 だが、適切なリハビリが実施されれば、約7割は歩行が可能となり、自立できるようになる。 最近、成熟した脳においても、かなり可塑性のあることが判明した。今それを促す新たな治療戦略が試みられており、大変楽しみである。
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