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“賦活”とは活性化という意味合いがあって、本来はポジティブな言葉。だが、「賦活症候群」となると、とたんにネガティブに変身。自殺したい気持を起こさせてしまうという、まことに厄介な抗うつ薬の副作用となる。 高度に情報化された現代の複雑社会は、うつ病を急増させているが、その一方で、それを治療する抗うつ薬もまた着実に進化している。 しかし、最近、精神神経科の専門医を大変悩ましているのが、最新抗うつ薬の副作用である、この賦活症候群の存在である。 抗うつ薬による比較的軽症な中枢刺激症状は、これまでにも少なからず注目されていて、自殺念慮との関与が論議され続けていた。だが、重症化した中枢刺激副作用が確認されるようになり、問題視が一層強化されることとなった。 副作用発現の症状の流れは次のようなもの。 抗うつ薬を新規に服用した直後より不眠・不安が出現。これを副作用とせず、うつ病悪化と誤診されるのが不幸の元凶。投薬量増加により不安・焦燥感が顕著となりとうとう自殺念慮を抱くまでに。さすがに賦活症候群の出現に気付き、処方薬を変更、元の安定症状に戻る。 こうした行動毒性は、服薬初期から比較的多く起こりやすく、投与量変更時にも細心の注意を要する。小児や思春期には特に要注意で、若年成人にも厳しい配慮が必要とされる。 うつ病患者は、最近、私自身の身近なサークルにも2名出現、すっかりポピュラーな存在になってしまった。もし、家族、親類等の中で、抗うつ薬服用中の者がいれば、そして急に不安やイライラが強まるような様子があれば、それこそすぐに受診を奨めるなど、一般人としても正しい対処法を心がけなければならない。 先般は抗ウイルス剤、タミフル本体によると思われる異常行動が大変話題となった。当初「関連性は認められなかった」と、厚労省の研究班は公表したが、次々とマンションから転落死する事例が続発し、「インフルエンザの子どもは2日間は1人にしないこと」との注意を促すこととなった。 更には、添付文書に警告として「10才以上の未成年の患者に、原則として使用を差し控えること」も記載された。因果関係が不明確ながら、薬剤の使い方を制限することになったのは、これが初めてだといわれる。 薬剤の精神、神経症状にからむ副作用発現は、それが直接死にからむことが多く、当事者はもちろんのこと、家族等の監視が極めて大切である。
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