メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
医者と患者のトラブル仲介
 
   昔の医者は、赤ひげ、或いは白ひげなどと言われながらも大変尊敬されていた。治療代を払えなくとも分け隔てなく手当てをしたし、命を救ってやった。そんな医者を、時には「先生様」などと言って心から感謝の気持ちを現わした。
 ところが今はどうだ。どこがどうくい違ってしまったのか、立場は逆転、「患者様」が幅をきかす世の中になってしまった。
 昔は、治療のかいなく例え亡くなることがあっても「先生様に診てもらえたのだから」と、家族は納得して死を受け入れていた。だが今は、医師が心から尽くしたとしても、「何かミスをしたのではないか」と疑念を抱く。その態度は非難的で遠慮会釈のないケースが珍しくない。
 昔の医療にも悪いところはあった。「依らしむべし」などといって、「患者は医者の言うことを素直に聞いていればいいんだ」と上から目線で押さえつけるケースも多く見られた。こうした高圧医療は決して許されるものではないが、常に医師に疑心暗鬼の念を抱いてしまう患者の態度も実によろしくない。
 つまりは、両者が正しく理解し合う医療がのぞまれるわけだが、最近、両者を仲介する役目をもつセクションが院内に設けられたりして、期待通りの成果が得られている。
 実例として、富山市民病院内には「患者アドボカシイ室」と称する相談室が設けられ、不満をもった患者の言い分を寸分なく受け止め、医療者との調整を進めながら、トラブルの拡大を防いでいる。
 「アドボカシイ」とは弁護・擁護の意味があり、もともとはアメリカ発の研究成果。そして仲介役は「医療メディエーター(医療対話促進者)」と呼ばれる。
 メディエーターの最も大切な視点は、「問題の本質」の正しい把握にある。それが少しでもズレていては、いつまでたってもスッキリした解決はのぞめない。
 そこに研究、研修の必要性があるわけで、実際に、養成、認定等をする機関として、「日本医療メディエーター協会」が昨年設立された。1年後の今、321名が認定を受け活動している。
 医療訴訟急増のさ中、研修希望者があとを絶たない。患者と医者のあるべき姿を目ざして、トラブルのない医療が確立されれば大変よろこばしい。

(2009年6月19日掲載)
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(2009年7月10日掲載)
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(2009年6月19日掲載)
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(2009年5月22日掲載)