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現在アメリカの抱える最大の社会問題は? と問われ、「肥満に決まっているジャン」と即答できたら、一応アメリカ通と認めていい。何しろ肥満がもとで亡くなる人が、この十年間で33%も増えたというから尋常ではない。 人が亡くなるということは、もしその人がバリバリの生産人口の一翼を担っているとしたら大きな損害である。亡くなる前の病気の治療費も大変だったであろう。こうして肥満による国家的経済損失は年間1千億ドル(11兆円強)を超えるというから、いかな大国といえどもノンビリ構えてなどいられまい。 肥満度を表すBMIを尺度に日米の差を見比べてみると、肥満に苦しむアメリカの実態がより鮮明にみてとれる。BMI30以上の“肥満者”割合は、日本の3%に対してアメリカはなんと30%。日本で肥満者として規定しているBMI25以上を含めると、アメリカ国民はその実65%が健康上問題ありとされる“過体重”状態にあるのだ。 まず動いたのが巨大組織CDC(疾病対策センター)。喫煙対策でまずまずの成果をあげた今、その精力の全てを肥満解消に向け、「予防可能な死因」のトップとして肥満にターゲットを絞っている。 早速実施されたのがTV広告で、節食と運動の必要性をそれこそ執拗に呼びかけている。 民間はこれをビジネスチャンスとして捉え、様々なアクションを仕掛ける。 医療機関では、手っ取り早い肥満解消策として肥満手術を積極的に奨める。全米で年間10万件を超える手術が実施された。行き過ぎた反動もあって「肥満があたかも個人の尊厳を損うが如き印象を与える」とのクレームが一部の肥満者から起きたが、社会の流れは変えようもなく、肥満外科医は年間4割の勢いで増えつづけているという。 肥満を巡るユニークな話題を一つ。 肥満少女2名が「肥満の原因はハンバーガーを食べ続けたセイ」としてマック社を訴えたのがきっかけで映画が作られている。 監督自身が肥満モデルとして主演、1日3食30日間ハンバーガー、ポテトなどを食べ続け11キロも体重を増加させた。なお、それを戻すのに14か月も要したとのことである。 むかし青年、いま壮年という3千人強を対象に、15年間も追跡調査をしたなかなかに説得力のある疫学研究がある。 それによると、ファーストフードを週3回以上利用し続けた人は、週1回未満の人より体重が4.5キロ増加し、糖尿病リスクが約2倍も高かった、という。 肥満に苦しむアメリカの生活スタイルを、日本人がわざわざマネることはない。ファーストフードをほおばるよりも、世界の認めるヘルシーな日本伝統食をただ素直に愛し続ければいいだけである。
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