メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
たかが便秘、されど便秘
 
   便秘はいとも簡単に起こり、通常はいとも簡単に収まりがつく。“たかが便秘”とついつい軽視されがちであるが、中には数日も便通がなく、四苦八苦することもあり“されど便秘”という厄介な存在でもある。
 アメリカでは、近年、便秘で救急受診する患者が増加、医療費大幅増大が問題と「米国胃腸雑誌」(4月号)が伝えている。
 2006年の救急受診50万件弱が、2011年には70万件強と42%も増え、同期間で国全体の医療費が2・2倍の16億ドル強と激増した。
 一方、わが国はどうか。2011年の患者調査によると、便秘の通院患者数は16万6千人と推計されている。救急受診か外来受診かその内訳は不明だが、アメリカとの人口対比でははるかに少ない規模。だが患者数は明らかに増大していると報告されており、生活改善には十分配慮する必要があろう。
 便秘の病態を探る上で、まず基本知識として排便のメカニズムについて触れておこう。
 通常は朝食をしっかり摂ることで、胃の刺激が大腸に伝わる。これは胃結腸反射と呼ばれるもので、前日までのボリュームのある硬すぎず軟らかすぎずの良質の便が、直腸内に降りてくる。
 この反射現象は極めて重要なポイントで、直腸内圧が上昇し壁が伸展されると脳は便意を催す。即、便座の人となり排便反射が起きると、腸蠕動に腹圧が加わりスッキリと排便できることに。
 良い性状の便は、およそ水分は70%で、残りの固形成分は、食物センイ(10%)、腸内細菌(10%)、その他老廃物(10%)に3分されている。
 便の骨格となる食物センイは極めて大切で、一般的に本人は気を配っているというが、時代と共に摂取量は大きく減少しているのが実態。主食を雑穀米に変更するだけでも大きく改善される。
 ヨーグルトなどの発酵食品(プロバイオティクス)や腸内細菌の栄養となるオリゴ糖(プレバイオティクス)などは、便通改善に極めて有用である。
 運動不足では大腸の蠕動が弱まり腹部膨満感を訴えるもととなる。ウォーキングにより歩きながらの放屁が、誰れに気兼ねすることもなく、大いにすすめられる。
 シロウト判断で下剤を長期服用していると、その効果が減弱、ついには何十、何百錠服用のケースも。いわゆる下剤乱用性便秘の患者が決して少なくない。
 最近、便秘薬としては32年ぶりとなる有用な新薬が登場したことだし、早急に専門医の指導を仰ぐべきである。

(2015年8月28日掲載)
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