メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
潜在患者掘り起こし広告
 
  「日頃胸やけで不快な思いをしていませんか」「苦い水がのど元へ上がって来ませんか」
 こうして問いかけられると、それほどひどくなくとも、そこそこ関心を呼ぶ人は少なくないであろう。
 「こうした症状のある人は『逆流性食道炎』かも。そんな時はお医者さんに」と更にたたみかける。
 処方薬は、一般市民へ具体的に薬剤名を明示し広告することは許されていない。だが、冒頭のようなアプローチで、TVや新聞等で問いかけられると、ついつい気になって医師の元へ相談に訪れる人が少なくない。
 こうして、結局は製薬企業のおもわく通り進むことになる。
 企業が、銘柄名を表に出さず、一般市民に巧妙にアプローチするマーケッティング活動が、最近急増しており、題して「ダイレクト・ツー・コンシューマー:DTCマーケッティング」と呼ぶ。
 これには3タイプあり、冒頭例にあげた方法は、市民に病識をもたせ、関連する医薬品のあることを示すもので「疾病啓発型広告」と呼ぶ。他に、特に疾病には言及しない「リマインダー広告」及び受診を特に推奨する「受診推奨広告」がある。
 この特殊広告手法の歴史は意外と古く、30年以上も前にアメリカで始まり、治療内容を自己選択する傾向の強い国民性に支えられ、確固たる地位を築き上げた。
 マーケッティング効率は極めて高く、ある調査によると、ドクター向き広告よりDTC広告の方が約4倍売り上げアップに寄与したとある。
 この普及方法があまりにも進んだこともあり、弊害もいくつか指摘されている。
 アメリカFDAによるドクター対象の調査では、「副作用の説明不十分(65%)」とか「効果が誇張され過ぎている(43%)」などのクレームがあり、評価は決していいものばかりではない。
 我が国では、アメリカを追いかけ急増中であるが、今のところ特に大きな問題はない。
 ただ楽観視は禁物。TVである健康食品の良さをアピールしたとたん、消費者がスーパーに殺到するような国民性からいって、DTC広告でも思わぬ現象が起こらないとはいえない。
 営利目的はほどほどに、適正なマーケッティング活動に努めて欲しいものである。

(2013年7月12日掲載)
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(2013年7月26日掲載)
◆潜在患者掘り起こし広告
(2013年7月12日掲載)
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(2013年6月14日掲載)