メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
医学生増加計画に疑義
 
   医師不足が指摘され、急遽医学部の定員増が実施され6年が経過、1400人余の増加が実現した。
 だが、それだけでは収まらず、さらに医学部の新設が企画、実施されようとしている。
 医師不足を解消するための当然の処置と思えたが、現状の医療態勢の中で、これを強引に実施しようとすれば、かえって事態が悪化する心配があり、中には地域医療の崩壊につながりかねないという強硬な意見を述べるオピニオンも現われ企画現場は混乱している。
 一番の問題は、教育に当たる指導者の確保にあり、そのほとんどは病院勤務医師が対象となるため、これを強行するようなことがあれば、かえって臨床医師不足状態が一層悪化しかねないとの懸念がある。
 小規模の医学部ですら、約250名もの臨床医が教鞭をとっており、医学部新設には多大な臨床現場の犠牲が伴うことになる。
 地方病院は一科一医師制で、それぞれ献身的努力により運用されているところが多く、その休診にとどまらず病院丸ごとの閉鎖に追いこまれたら大ごとである。
 ベテラン医師1、2名の減員でも地域医療にとっては大きな痛手であり、地域住民が多大な不便を蒙ることになる。
 日本はこれから人口減少が確実視されているが、そんな中で世界標準以上に医師を増員する意味は全くない。むしろこれからは医学部定員削減計画を考える算段も必要となってくるのでは。
 既に実施された定員増について、実施後の運用実態が報告されているが、そのすこぶるお粗末な内容には心底呆れてしまった。
 全国80大学医学生の学力を調査したところ、留年、休学、退学者の急増が判明。特に、2008年以降、定員を増加したことが学力不足医学生の増加に拍車をかけたとの強い相関が指摘された。
 こうなると、今後推進させようとしている医学部新設計画に対しては、強い疑義、懸念がかけられて当然。
 命のかかわる医学を志している学生なのに、授業中教室を走り回る小学生のような信じられない光景をみせつけられると、思わず絶句、愕然とすると、ある大学教授は落胆を隠せない。
 こうした学生を生んだ根本原因としてゆとり教育の影響が指摘されている。この教育を受けた若者が丁度、医学部定員増加時期と重なったことが、一層事態を悪化させたとみられている。

(2014年8月1日掲載)
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(2014年8月22日掲載)
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(2014年8月1日掲載)
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